よみタイ

真夜中の高原で体験した出来事

真夜中の高原で体験した出来事

 翌朝、僕たちは屋上に寝転がっている状態で目覚めました。
 もちろん友人たちに、昨夜のことをあれこれと訊ねました。
 しかし全員、口を揃えて「なにも覚えていない」と言うのです。星を見ているうち、なんとなく眠ってしまっただけだ、と言い張るのです。
 そんな訳ありません。あれは絶対、夢ではありません。
 あの夜の出来事を、僕がいくら言い張っても、友人たちは笑い飛ばすだけです。でも彼らは忘れているだけなのです。なんらかの理由で、記憶が消えているだけなのです。
 僕は、そう確信しています。
 
 なぜなら、あれから三か月経った今、僕もまたあの夜の記憶をどんどん失いつつあるからです。あれほど鮮明だったイメージが、どんなに思い出そうとしても、おぼろげにしか浮かばなくなっています。今ここに記したあれこれも、必死に残したメモを参考にして書いているだけなのです。
 あと数日経てば、自分がこの体験談を語ったことすら忘れてしまうかもしれません。
 だからどうか、お願いです。せめて、あなただけは、僕の話を覚えていてください。

 

8月の『日めくり怪談』特集一覧
8月2日 空を飛ぶ夢を見るようになったら
8月6日 あの家に住んでいた頃のこと
8月9日 川の上流から流れてくるもの
8月13日 「チヨちゃんが来たんだね」
8月16日 小人が見える女子大生
8月20日 夏休みに流れた噂
8月23日 振り向いてくれない美人教師

1日5分の恐怖体験、いかがでしたか?
『日めくり怪談』は毎日読んでもひと夏楽しめる、全62話を掲載。
詳細はこちらから。

7月の『日めくり怪談』特集一覧
7月2日 夜道を歩く女性の二人組が向かう先
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの
1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

週間ランキング 今読まれているホットな記事