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振り向いてくれない美人教師
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

振り向いてくれない美人教師

 夏休みの終わり頃、テニス部の練習に出ていた時のことだ。部活の顧問に言いつけられて、体育倉庫まで用具をとりにいった。
 僕の中学校では、テニスコートから倉庫へ移動するには、柔道場の裏を左へ折れるのが近道だ。その細い道を通りつつ、角を曲がろうとしたところ。
 進行方向の反対、つまり右手の方に人影が見えた。柔道場の脇に、女の人がぼんやり背中を向けて立っている。後ろ姿とはいえ、見覚えのある髪型と背格好、そしていつものスーツ姿だったので、すぐに誰なのかわかった。
 美人のトダ先生だ。
 教師とすれ違ったら挨拶をするのが、わが校のルール。僕のような運動部の生徒だったら、なおさらだ。

「こんにちは!」
 少し離れていても聞こえるよう、元気よく声をかけた。
 でも先生は、まったく振り返ろうとしない。というか、僕の声に反応している様子がないのだ。聞こえなかったかと思ってもう一度、大声を出してみる。
「先生、こんにちはあ!」
 やはり向こうはじっと立ちつくしたまま。少しムキになった僕は、近づいてみようと一歩だけ踏み出した。けど、そこでなんだか足が止まってしまった。

 さすがにちょっと様子がおかしい。トダ先生は運動部の顧問じゃないし、夏休みの学校のこんな裏道にいること自体が変じゃないか。
 そしてなにより、相手が泣いていると感じたから。
 両手を垂らして、ぴくりとも動かない後ろ姿が、なんでそう見えるのかわからない。
 でもとにかく(あ、この人、泣いてる)という直感が走ったのだ。
 大人が泣いているのなんて、テレビでしか見たことがない。ましてや自分の学校の教師だ。とたんに気持ちがひるんだ僕は、体育倉庫の方へと踵を返した。
 
 少し歩いてから振り返ると、先生の姿が消えていた。
 数秒でいなくなれるような場所ではない。真夏なのに、体中が寒くなった。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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