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真夜中の高原で体験した出来事
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

真夜中の高原で体験した出来事

 三か月前、高校のオリエンテーション旅行で東北地方のとある高原を訪れました。
 これから僕が伝えるのは、その宿泊所で体験した出来事です。
 
 旅行二日目の夜、僕と同室の友人三人とが、ちょっとした冒険心を起こしました。夜中にこっそり部屋を抜け出し、宿泊所の屋上へと侵入したのです。
 なだらかな山や国有林が続く、見晴らしのいい場所でした。僕たちはどこまでも広い満天の星を眺めながら、たわいない会話をあれこれと交わしていました。

「なんだ、あれ」
 しばらくして、手すりにもたれかかっていた友人が、そんな声をあげました。彼の指さす方、数十メートルほど離れた原っぱを見やると、なにやら赤い光が瞬いています。
 すっかり闇に目が慣れていた僕たちには、それが焚き火だとわかりました。
「キャンプファイヤーでもしてるのか? こんな夜中に?」
 さらに炎の周りを、五、六人ほどの人影がぐるぐる回っているのが見て取れます。はじめは遠近感がうまくつかめなかったのですが、次第に、その人々のサイズがおかしいような気がしてきました。
 明らかに背が小さいのです。
 せいぜい小学校低学年、ひょっとしたら未就学児くらいの身長しかありません。もちろん、ボーイスカウトなどの夏キャンプが行われていてもおかしくはないでしょう。しかし小さい子たちだけで夜更けに火を焚くなど、いくらなんでも不自然だし、危険な行為です。
 これは大人に知らせた方がいいのではないか。
 僕たちが顔を見合わせていると、その方向から、甲高い音が響いてきました。小さな人影が声を合わせ、呪文のようなものを唱えています。
 
 ウウフォアウフホイー……ユウウォアフウウホイイ……

 なんと言っているのかは、いっさい聞き取れません。そんな音だったような気がしただけです。とにかく、静まり返った高原に響きわたる奇妙な喚声を、僕らは声もたてず、じっと聞いていました。

「おい!」突然、友人の一人が叫び声を上げました。彼の顔がまっすぐ上を向いていたので、つられて僕も空を見上げます。
 一瞬、自分の頭がおかしくなったのかと思いました。
 夜空にぽっかり、大きな穴が空いていたのです。
 その部分だけ星一つない、黒くて丸い穴が。
 まっ黒い楕円は、みるみる大きくなっていき、満天の星が全て消えてしまいました。
 そこで僕は気づきました。空で穴が広がっているのではなく、巨大な黒い物体が、こちらに近づいてきているのだ、と。
 目の前が闇に包まれたところで、ぷつり、と記憶は途絶えました。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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