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「チヨちゃんが来たんだね」
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

「チヨちゃんが来たんだね」

 両親は、私が小さい頃に離婚している。
 私を引き取った母は、私が成人するまでがむしゃらに働いてくれた。
 そのおかげで私は無事に就職し、婚約者とも結ばれることとなった。
 彼との結婚直前、女手ひとつで育ててくれた母と二人きりのホームパーティーを催した。
「そういえば、お母さんたちが別れる前、ずっと不思議なことが続いてたんだよ」
 昔ばなしに花が咲くうち、当時の記憶がよみがえってきた。
 
 あの頃はいつも、親が言い争う声で起こされたものだ。
 大人になった今ならわかる。いちおう父も母も、私の目の前ではなく、寝た後でケンカするよう気遣ってはいたのだろう。でも毎晩、目が覚めるほどの怒号を二人してあげていたのだから、はっきりいって意味のない気遣いだった。
 そんな時、私はいつも、じっと暗い天井を見つめていた。そうしていると必ず、うっすら浮かぶ木目の模様に、黒いモヤのようなものが重なってくるのだ。
 それは次第に、はっきりした影になっていく。天井にぴったりはりつく、小さな人の影。
 私と同じ背丈、同じおかっぱ頭の女の子だ。
 自分の影が映っているんだな、と思っていた。もちろん真下に光源でもない限り、そんな現象はありえない。まあ、子どもの勘違いだから仕方ないだろう。
 隣室の怒鳴り声と、天井にはりつく人影。
 私は毎夜、それを聞き、それを見つめていた。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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