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小人が見える女子大生
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

小人が見える女子大生

「小人が見える人」ってのは、それほど珍しくないと思う。「小さいおじさんをよく見ちゃうんです」って言ってくる女の子、俺はもう何人も会っているし。
 でも、うちの映画サークルにいたユキって子だけは、ちょっとタイプが違ってたな。
 彼女は本気で「小人を怖がってる人」だったんだ。
 
 ──小学生の時から私、ずっと小人に襲われ続けてるんです。
 
 新歓コンパの自己紹介で、ユキは皆にそう告げた。変な奴が入ってきたぞと面白がって、俺たちも具体的なエピソードを聞き出していった。
「小人たちは大勢いて、たいてい時計の裏に隠れている」
「子どもの頃、寝てる間によく小人たちに腕を嚙みつかれていた」
「自分が大きくなってきて、ようやく小人の攻撃もおさまってきた」
 ……こうしてみるとファンタジーだけど、彼女が本気で怖がってるのは口ぶりから伝わってきた。最後には「もう、このことは話しません」って宣言されたし。
「頭がおかしいと思われるから、本当は他人に言わないようにしてます。自己紹介だから話したけど、今日だけです」
 ああ、そこらへんはちゃんと自覚してる子なんだなって思った。実際、普段の彼女はかなりマトモだったよ。

 様子がおかしくなったのは、同じサークルの男子と付き合いはじめてからだった。
 その彼氏によれば、恋愛関係になってからというもの、ユキがことあるごとに「小人が小人が」と騒ぎ立てるようになったのだとか。
 例えば、彼が女友だちを紹介しようとしたら、「ぎゃあ!」と叫んでその場にうずくまる。
 女友だちの右肩に、小人が乗ってるっていうんだ。それがニヤニヤしながら髪を引っ張ってる。「だから、もうあの子と関わらないで!」とゴネだす始末。
 ある時は、「たいへんなことが起きてるから、すぐアパートに来て!」と電話がかかってきた。バイトを早退して彼氏が駆けつけると、部屋の中が水浸しになっている。床から玄関まで、もうびしょびしょ。
 ユキによれば、自分が帰ってみたらこの有様だったという。流しも風呂も水が出しっぱなしで、排水口に「小人」が詰まっていた。やつらはこういう攻撃をしてくるんだ、と。
「まな板に小人の足跡が付いてる」って騒いだこともあったな。彼氏から画像も見せてもらった。確かに、木のまな板の上に、小さな足跡みたいな汚れがついてたよ。その頃のユキは「最近、小人が部屋を自由に歩き回るようになった」とすっかり怯えていたらしい。

 でもそれ、わざと自分の握りこぶしと指で、ぽんぽんとつけた跡なんじゃないの? 女友だちのは嫉妬からの言いがかりだし、水だって彼氏の気をひくための自作自演じゃないの?
 つまり全部、ユキの噓なんだろう。サークルの皆は、そう考えていた。本人たちに直接は言えなかったけど、どんどんやつれていく彼氏を見て、心配していたものだった。
 案の定、二人はすぐに別れたよ。
 そこからユキは、完全に精神を病んでしまった。いったん大学を休んで、実家に帰ることになった。というか、心配した両親に、身一つで無理やり連れ戻されたらしい。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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