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始まりは30年後。それじゃ、もう遅い

自分たちの幸せを自分たちで決める共同体の存在

――さ、30年後……。その間に人間の本能に従ってどんどん二極化は進んでいくと。それにしても、なんで30年後なんでしょうか?

「我々はもう物質的な成長や猛烈な技術進化は要らないんじゃないかと思う面もあるでしょうが、途上国の人たちはまだ当面は『もっと豊かになりたい、経済成長したい』と思うでしょう。でも彼らが『もう十分幸せだから、これ以上はいらないです』っていうところまでいけば変われると思うんですね。それが30年後くらいなんじゃないかなと思っています」

――あの、お話を伺っていると、中間をゆらゆらしていきたい私には絶望しかないのですが。何か希望を……。

「個体の生存可能性を高めて、種を繁栄させるためには、富を貯めて生存可能性を高めることと、技を磨くことがあると言いましたが、実はもうひとつあるんです。それは“連帯する”ということ。人と人が共同体をつくることで、種を繋いでいくことができるのですが、今、ここができていないんですね。最近、僕は“多世代共生”という優等生的な言葉を自分のテーマにしつつあります。20世紀が作ってきた都市は、自由で孤独な世界なので、居住環境と街を再編して、共生型都市へのシフトを考えています」

――結局、人間とて、どこまでいってもただの生き物なんですね。核家族化にしろ、地域社会の縮小にしろ、確かに個人の自由が進んだ結果、人と人との繋がりが薄れて孤独が生まれやすい環境になってきた気がします。

「よくコミュニティ論でも言われる話なんですけど、人間は自分で暮らせるときはひとりで面倒な付き合いをせずに暮らしたいんですよ。別に同じマンションやご近所同士じゃなくても知り合いは作れるし、家の目の前に職場があるわけでもない。だったらそりゃ気楽なマンションがいいよねっていう話になるのですが、最後の最後でハタと気づいた時には孤独に陥っているという人は増えていくと思います。そこで突然、老人ホームというシェアハウスに入ることになるわけですが、なんだか不自然ですよね」

――そもそも地域社会として“連帯”しておく必要があったということでしょうか。共生型都市というのはそれと同じようなものですか?

「たとえば住宅の話でいうと、北欧を中心に広がっているコレクティブハウスというものがあります。シェアハウスではなく、それぞれの家の生活空間が個別に完結していて、同じ庭を囲んでいて、共有部もある。共有部を使ってもいいし、使わずに家にいても構わない。そのうえで、そこには研究を重ねたルールがあるんですね。そこにあるのは、誰かが事業主として他の人に提供するのではなく、みんなで組合を作ってみんなで作ろうという協同組合的な考え方です。行政が補助もするけど、基本的には自治。そこに住んでいる自分たちの幸せを全体最適、長期最適で考えよう、ということを徹底していて、スイスやオーストリアではかなり発達しています。これから進めるべきは、コレクティブハウジングのような住み方であり、さらに言えばコレクティブ社会に向かって、住宅像から社会像まで変えていくべき時代だという感覚でいます。そしてそれが、日本の地方にはできるかもしれないっていうのが僕の希望です」

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林厚見

林 厚見(はやしあつみ)/株式会社スピーク共同代表
東京大学で建築を学んだ後、同大学院を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、コロンビア大学に留学し、建築大学院の不動産開発科を修了。日本に戻ってきてからは不動産ディベロッパーでの経営企画などを経て現職に。「東京R不動産」、「toolbox」の運営以外にも、建築、不動産、地域の開発や新規事業のプロデュースなども手掛ける。

藤原綾

ふじわら・あや
1978年東京生まれ。編集者・ライター。
早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て宝島社に転職。ファッション誌の編集から2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。
インスタグラム @id_aya 
ツイッター @ayafujiwara6868
プロフィール写真©chihiro.

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