2026.5.22
ラー油を自作するタイプの男性たちが牽引した「家で本格中華を食べたい」というニーズ
本当の「おいしさ」はどこにあるのか——?
『異国の味』『東西の味』に続く、稲田俊輔による「味3部作」連載、第3弾!
第2回は、挽き肉を使って簡単に作れる家庭料理と言えば筆頭に上がってくるであろう麻婆豆腐です。
麻婆豆腐 〜挽き肉料理の出世頭を、陰で支えた「麻婆男」〜
前回、ハンバーグは現代家庭料理の頂点、と書きました。そして、比較的頻繁に作られる中では最も手間がかかる部類の料理、とも。実際、ハンバーグより手間がかかりそうな料理は、なかなか作られることがない印象です。かつて昭和の時代に定番だったロールキャベツは、既に定番の座を下りているように見えます。僕はロールキャベツの後釜に座ったのが「ポトフ」ではないかと考えており、いつかその話もしたいものです。
ハンバーグまでは頑張れても、そこからさらに手間をかけてメンチカツやスコッチエッグに展開する人は、ぐっと少なくなるのではないかと思います。展開と言えばハンバーグのタネを型に詰めてオーブンで焼く「ミートローフ」は、ハンバーグより楽に作れる料理ですが、作る人は案外少ないようです。日本の家庭におけるオーブンの普及率は約70%という調査結果があるのですが、なぜかそれが普段の料理に使われることは少ないようで、これは少し不思議な現象にも思えます。
逆に言えば、こういったもの以外の挽き肉料理は、さまざまなものが家庭で頻繁に作られているということは言えそうです。なにしろ挽き肉は、ステーキ肉やスライス肉に比べて、火の通りも早いし価格も比較的安い。家庭料理において頼もしすぎる存在です。
そんな挽き肉料理の中で、現代における出世頭と言ってもいいのが麻婆豆腐なのではないでしょうか。作られる頻度から言うと、もしかしたらハンバーグ以上かもしれません。
クックパッドの投稿数で見ると、ハンバーグの5万弱に対して麻婆豆腐は1.3万。この数字だけ見ると、「なるほど麻婆豆腐もなかなか健闘しているけどさすがにハンバーグには遠く及ばないな」と思うかもしれません。しかし皆さん、この単純比較には裏があります。どういうことか? 家庭で作られる麻婆豆腐のほとんどは、市販の「麻婆豆腐の素」を使って作られていると考えられます。そのレシピがクックパッドに投稿されることはほぼ無いでしょうから、実際に作られている回数・頻度はハンバーグ以上なのではないか、というのが僕の見立てです。
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つまり「麻婆豆腐の素」こそが麻婆豆腐大躍進の立役者ということです。味の素株式会社の2024年のリリースによると、中華合わせ調味料の市場で、麻婆豆腐の素は38%を占めて最大カテゴリーです。その味の素の麻婆豆腐と言えば、言わずと知れたCook Do。現在のシリーズ定番は「四川式麻婆豆腐用」と「広東式麻婆豆腐用」です。
クックドゥの発売は1978年で、麻婆豆腐自体は初期からのラインナップ。現在の広東式は、そこからの流れを引き継いだものと言えそうです。日本人が昔から慣れ親しんでいる、マイルドにアレンジされたタイプの麻婆豆腐ですね。対して四川式の方は、より本格的でスパイシーなタイプ。こちらは1995年の発売です。
その少し前の1993年、テレビ番組『料理の鉄人』の豆腐料理対決に四川飯店・陳健一氏が登場し、四川式麻婆豆腐を披露して勝者となりました。おそらくこのあたりの時代から、こういう麻婆豆腐は一気に認知度が上がったのではないでしょうか。
もっともこの時点においては、花椒の「痺れ」が強調されることはあまりなかったようです。花椒はあくまで香り付けだったということなのでしょう。辛さと痺れを両方とも強調するいわゆる「麻辣」味は、その後時代を追うごとに徐々に人気を集めていくことになります。
外食を含めた麻婆豆腐全体の世界を見ても、1950年代以降比較的マイルドな日本式麻婆豆腐がまず定着し、その後四川式が上陸、人気の高まりと共にさらに本格化していく、という二段階、三段階のステップにより、麻婆豆腐全体の地位が盤石なものになったという流れがあります。カレーでもそうですが、日本人が辛さ耐性やスパイス耐性を高めていったことも、こういう広がりのある進化にダイレクトに表れていますね。

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