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始まりは30年後。それじゃ、もう遅い

30年後を見据えた私なりのサバイバル

 どうやら、東京では30年かけて二極化が進んでいき、中間層としての幸せを感じづらい時代になる、その間に地方では小さな地域で少しずつ新しい価値観が生まれていくようです。30年後というと……72歳。おーい!

 でも、見て見ぬふりをしていても、じわじわと進行しているのはわかっています。
 経済学者の森永卓郎さんが、『年収300万円時代を生き抜く経済学』を出版したのが2005年。そして、去年の夏、本屋で目にした森永さんの著書のタイトルは『年収200万円でもたのしく暮らせます』でした。全体の賃金が落ち続けているのは指標を見れば火を見るよりも明らかですし、こども食堂なんて言葉が聞こえ始めたのもここ数年のこと。
 一方、日本の富裕層も過去最多人数となり、東京は世界でも富裕層が多い街ランキングの2位につけています。これはどう考えても、中間層が富裕層と貧困層のいずれかに引っ張られているということで、当然貧困層のほうがその数が多いからこそ、森永さんの著書のタイトルも変わったということです。

 特冠、1組、2組、3組。
 別に、特冠クラスにいた子どもがみんな幸せだったわけじゃないのに、社会は何に価値に置いて、どこへ向かおうとしているのか、よくわからなくなってきました。
 ただ、確実にわかるのは、これから東京なりの最適化が育む価値観は、私のような競争に燃えないタイプには向いていないということです。地方のほうが少子高齢化は進んでいるなんてわかっているし、行ったところでその新しい価値観とやらで生きていける確証もありません。実際、林さんも地方には廃墟が増えると言っていて、きっとそれは事実でしょう。

 でも、林さんの未来予想図は、私の感覚でしかない予想が決して誤っているわけではないという自信を与えてくれました。林さんの話に出てくるコレクティブな考え方がまだ生きているのは、自治会というものになりそうです。
 例えば、新たにゴミステーションを地域に作ろうという話になったとき、〇〇さんの家のおばあちゃんは足が悪いから、そこの近くにしましょう、という考え方が恐らく全体最適というもので、確かに理にかなっているし、小さな共同体だからこそ出てくる発想なのだと思います。

 経済とは経世済民。世を治めて民を救うもの。
 その考えが興味深くて、受験の時は経済学部や経済学科ばかりを受けたことを思い出しました。大学では専ら人生勉強に終始してしまったことはさておき、まだ間に合うかどうかはわからないけれど、地域社会の繋がりを深めて、地域経済に寄与することは本望です。
 この先30年かけて進行する弱肉強食社会のなか、自由が生み出していくビジネスよりも、産業を支えることほうが必要に感じます。“業”とは暮らしを支える仕事。東京の仕事を受けながら、地域で業を産む人に支出する。強きも弱きも生き物の本能として連帯を深めながら、何かあったときはお互いによろしくね、多少の失敗は笑って許し合いましょ。なんか、見えてきた感じがします。

 子どもの頃から町内会の催し事にすら参加したことがないし、しかもフリーランスになって14年目。バツイチになって8年目。個人の自由を謳歌しまくってきた私が、共同体で生きることを苦痛に感じるなんて往々にして考えられます。
 それでも、30年なんて待っていられません。このまま指をくわえて、弱肉強食の渦に巻き込まれていくくらいなら、むしろ30年後に向かって今から種をまき始めておいたほうがいいのではないでしょうか。
 サスティナビリティからきた発想でもなく、地方に自己実現を求めたわけでもなく、得意の「逃げるが勝ち」戦法による移住計画。忍耐力も根性もとっくにありません。何なら最初から持っていなかったのかもしれません。
 とにかく早い方がいい、思い立ったが吉日と、まずはどこに移住するかを考えることから始めることにしました。

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林厚見

林 厚見(はやしあつみ)/株式会社スピーク共同代表
東京大学で建築を学んだ後、同大学院を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、コロンビア大学に留学し、建築大学院の不動産開発科を修了。日本に戻ってきてからは不動産ディベロッパーでの経営企画などを経て現職に。「東京R不動産」、「toolbox」の運営以外にも、建築、不動産、地域の開発や新規事業のプロデュースなども手掛ける。

藤原綾

ふじわら・あや
1978年東京生まれ。編集者・ライター。
早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て宝島社に転職。ファッション誌の編集から2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。
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プロフィール写真©chihiro.

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