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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、地縁のない土地へ。
女の後半人生を掘り下げる移住体験実録進行エッセイ。

勝ち組にも負け組にもなりたくないだけなのに

当たらぬ未来予測、不安定がゆえの不安

 山が好きで温泉が好きで、いずれは長野の伊那あたりで悠悠閑閑と暮らしたいなあなんて漠然と妄想していましたが、それはあくまでも老後のお話。多くの親戚や友人は東京で生活を営み、仕事も東京にしかないのが現実です。何も考えず故郷を離れるには、年齢的にもリスクが高すぎます。

 そもそも自分には地域社会が必要なのではないかという仮説に立ってみたものの、今まで私は未来予測をことごとく外してきました。
 20年ほど前、ユビキタスという言葉が登場したとき、今後は場所や時間にとらわれない働き方が可能になるから、東京の一極集中は終わるものと思っていました。どこにいても自ら発信できるようになるので、きっとそれぞれの地域で独自の文化が花開き、これからは地方が楽しい時代がやってくる。私も今の企業にとどまる必要はない、好きなことをして好きな場所で生きていこうと、意気揚々と安定を捨てて大企業を辞めたのです。
 ところが、地方がどこもかしこもゆるキャラを作り始めて、私の理想郷は完全に打ち砕かれました。独自の文化どころか成功例を真似するだけで、どの地方も同じことをしているように見えました。

 次に読みを見誤ったのは7~8年前。ソーシャルグッドという言葉が広がってきたので、これからは社会に貢献する事業にお金が回ってくるようになると考えました。今までの薄利多売から質を重視したモノやサービスが生まれていくに違いない、消費者も広告に惑わされることなく、自分の目で選ぶ時代がやってくるのだ! と明るい未来を想像しました。
 でも、やっぱりそんなことにはなりませんでした。質を上げるというよりも、効率化の名のもとに、様々なものが削られていくだけのような……。確かに無駄なものもたくさんあったのでしょう。でも、一緒に必要なものまで削られている気がします。

 うまく言葉にするのは難しいけれど、「ありがとうございます」と口に出すことに意義があって、そこに感謝の意を込めることは無駄に分類されていくような。
 なんだか、徐々に人間を人間たらしめるものが削られているような危うさを感じるようになりました。私の考えすぎでしょうか。
 冗談の言えない会議なんて私にとっては地獄でしかないのですが、会議を早く終わらせることが目的なのだとしたら、私の存在は邪魔でしかありません。
 そもそも、コストカットで利益をあげている企業が削れるコストがなくなったとき、果たしてどうなっているのでしょうか。既に予算カットの話をあちらこちらで耳にする中、のほほんとやり過ごしてきた私は、なんだかやっぱり生き残れる気がしません。

 そんな不安定な社会状況のなか、不安定なフリーランスという立場で、世の中はコロナ禍に突入していきました。仕事のリモート化はどんどん進んで、打ち合わせは自宅でできるようになったし、校了作業で出版社に出向くこともありません。
 さらに、ファッションの仕事については、コロナの影響もあって長くお付き合いのあったブランドがふたつ消滅し、ファッション以外の仕事の割合が増えていきました。編集者、ライターという立場にあって、ひとつのジャンルに特化していないことをコンプレックスに感じていましたが、まさかここにきてそれが功を奏するとは。いいか悪いかは別として、気づかぬうちにリスクが分散されていました。

 そして、フリーランスの仕事仲間にも変化が見えてきました。持続化給付金によって、過去最高益になった人もいれば、あれがあって救われたという人も。忙しい友人は相変わらず忙しいけれど、以前は人気者だったはずなのに仕事が激減したという友人の声もちらほら耳にします。もしかして、仕事自体のパイが減って、弱肉強食が加速しているのかも?
 これはまずい。まずすぎる。
 私が弱肉強食の沼に浸かっていた時期は2回ありますが、いずれも、とんでもないストレスを抱えていました。あの頃には戻りたくないと、今でも思います。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

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