よみタイ

人生も残り少なくなってきたので、苦手なキノコを食べてから死ぬことにした

 初めて作ったにしては及第点の出来栄えじゃないかと自画自賛。私は自分で自分のことを褒めないとうまく生きていけない。
 そんなわけで、いざ実食。こんにゃく麵のプルッとしたコシの強さもあって、普通のパスタよりもみずみずしさが感じられる。苦手だったキノコは、その味も食感も全く気にならない。正直言って美味い。美味すぎる。
 私の作ったパスタを口いっぱいに頬張りながら、サムズアップサインを私に送る彼女。こんなにダサいポーズを自信満々で出来る女を私は愛している。愛すしかない。

「次は何を食べられるようになって欲しい?」と聞くと「納豆しかないでしょ!」と即答。
 困った。お前のことを愛しているけれど納豆だけはダメだ。あれだけはダメだ。私の表情が微妙に曇ったのを察知し、彼女の目が怪しく光る。ああ、いったいこいつはどんな手を使って私に納豆を食べさせるのか。愛と料理はいつだって騙し合いの真剣勝負である。

 (イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は10月22日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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