よみタイ

人生も残り少なくなってきたので、苦手なキノコを食べてから死ぬことにした

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は自らのペンネームにもかかわらず、関心がなかった「爪」ケアについてのお話でした。
今回は、ようやく涼しくなって「食欲の秋」も本番。体にはいいけど、苦手だった食材、キノコを作ってクッキング!?

(イラスト/山田参助)

第30回 人々の愛と健康を育む食べ物。それは……キノコです

 冒頭からなんとも汚い話で恐縮だが、ウンコをするときにお腹からドキューンとかズキューンという銃声のような音がする。するのだから仕方ない。私は作家である。文章を生業とする者のプライドを持って今一度書こう。ウンコをするときにお腹から銃声のような音がします。

 ストレスや緊張、もしくは食あたりなどで腹を下すことは稀にあったが、四十代になってからというもの、年がら年中、ドキューン、ズキューン、バキューンと西部劇さながらの銃撃戦が繰り広げられている。自宅はまだいい。外で用を足すときなんかは、隣のトイレから「ええっ?」とか「爆発?」という声が聴こえてきたこともある。
 破裂音だけでなく便の状態も芳しくない。常に下痢気味でドロドロのスライム状の軟便しか出てこない。漫画でよく見る綺麗な巻きグソ。私にはもうあんなに美しくて綺麗なフォルムをしたウンコを産み出すことができないのだ。それはちょっぴり悲しいことである。

 病院で検査を受けても特に異常はなし、処方された整腸剤、市販薬に漢方薬、健康茶などなど、さまざまなものに手を出してみたが、お腹の銃声が鳴り止むことはなかった。
 いや、よくよく考えてみれば、ウンコが全く出ない人生に比べれば、今の方が幾分かマシにも思える。銃声と共にクソを垂れるなんて、ある意味ハードボイルドで格好良いじゃないか。そんな風に自分をごまかしながら、ドキューン、ズキューンと致してきた次第であります。

 そんなお腹の調子が最近すこぶる良い。私を悩ませていた銃声もすっかり鳴り止んだ。トイレってこんなに静かな場所だったっけ。よかった、戦争はもう終わったんだ。いったいなぜ? そうか、これはあれだ、あれでそれだ。四十にして惑わず、四十にしてやんわりと美容と健康に目覚め、日々の食生活を改善した努力が実を結んだに違いない。
「しがない物書きのおっさんが何を似合わんことをやっとるんだ」と友人やファンから後ろ指を指されながらも、ルイボスティーと白湯を飲み続けてきた。一日のうち四食をカップ麺で済ませ、やよい軒でご飯のおかわりをし過ぎて動けなくなっていた私が、今では自炊中心の生活を送っている。ついにきた。爪切男の健康……ここに極まれり!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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