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人生も美容も健康もちょっと失敗するぐらいでちょうどいい 【第8回  世界で一番怪しい漢方薬屋のオヤジを愛してる! 】

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は美容と健康に大切な「お風呂」について改めて考えてみたエピソードでした。
今回は、二か月に一度ぐらいの頻度では通い続けてきた、著者が愛する漢方薬店とそのオヤジさんとのお話です。

(イラスト/山田参助)

第8回 世界で一番怪しい漢方薬屋のオヤジを愛してる!

「美容」と「健康」に興味を持つ以前から、ちょいちょいお世話になっていた漢方薬屋がある。常連というほどではないが、二か月に一度ぐらいの頻度では通い続けてきた。

 私がその店を愛する理由はただひとつだけ。とにかく〝胡散臭い〟のである。

 店頭には「あんまりお金をかけずに健康になろう!」「本気で漢方やろうよ!」との怪しい文句が書かれたPOPが乱雑に貼られており、入口横に置かれたディスプレイでは、テレビの取材を受けたときの映像が二十四時間休むことなく流され続けている。なんともエキセントリックな店構えである。

 中に足を踏み入れると、明らかに漢方薬が足りてなさそうな土色の肌をした狸顔のオヤジが出迎えてくれる。シワだらけの白衣をまとった恰幅の良い姿は、薬局の主というよりはマッドサイエンティストといった方がしっくりくる。ただ、その物腰はいたって穏やか極まりない。まったく、平熱でどうかしてる人間ほど厄介で魅力的なものはない。

 五百円でお手軽に購入できる「ワンコイン漢方」がこの店のウリである。店内を見回すと、パケ袋に入った物凄い数の漢方薬が所狭しと陳列されている。店主自ら調合したというその数は、ゆうに四、五百を超える。一袋一袋に丁寧な効能書きが付いているところからも店主の実直な性格が見て取れるのだが、この店の如何ともしがたいサイケな雰囲気のせいで、アッチ系のブツに見えて仕方がない。

 実際に飲んでみた感想としては、漢方薬と聞くと、多くの生薬が配合されていて「良薬口に苦し」というイメージが強かったのだが、これが驚くほどに飲みやすい。
 味の好みや入れて欲しい材料など細かいリクエストにも応えてくれるので、サブウェイで自分だけのサンドイッチをカスタマイズしているような楽しい気分になる。
 まあ、見違えるほど体調が良くなるなんてことは少ないのだが、お守りのような感覚で日々服用するぐらいがちょうどいいのではないだろうか。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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