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「何かに動かされている」という感覚が、占いと心理学には共通している【 新刊『昼間のスターゲイザー』試し読み】

占星術研究家・鏡リュウジさんと、臨床心理士・東畑開人さんの対談本『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』がいよいよ発売となりました! 
星は昼も変わらず空で輝いているはずなのに、その瞬きは見えないし、存在も意識することもほとんどない――。「こころ」や「運命」をそんな星になぞらえ、占いと心理学から語り合った1冊です。

東畑開人さんによるまえがきの全文公開に続き、序章ともいえる『打ち合わせ 昼と夜のあいだで』から一部を試し読みとして公開します。

お楽しみください!
『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』。挿画は西村ツチカさん。1,980円(税込み)/集英社
『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』。挿画は西村ツチカさん。1,980円(税込み)/集英社

鏡さんは「東京のお兄さん」

東畑 まずはなぜ僕たちがこの対話をするにいたったのか、どんなことを考えていきたいのかを話しましょうか。いわば本格的な対話の前の打ち合わせですね。よろしくお願いします。
 占い師と心理士、二人の出会いの話からはじめると、鏡さんは僕にとって「東京のお兄さん」なんですよ。沖縄から東京にきて、本を書くようになったときに、どうやって生きていけばいいかを色々と教わりました。たとえば、安易にテレビは出ないほうがいい、とかね(笑)。

  いやいやそんな(笑)。知り合ったのは東畑さんが沖縄から東京に戻ってこられた二〇一五年頃ですね。当時『野の医者は笑う』(誠信書房、二〇一五年 文春文庫、二〇二三年)という本を東畑さんが出版されて、読んだらめちゃめちゃ面白かった。すぐに感想をツイートしたら、東畑さんが「インタビューしたい」とDMをくださって、大喜びですぐにお会いしました。

東畑 はじめて会う場所に鏡さんが指定したのが、新宿ミロードの喫茶店。ミロードっていうのがまた東京的な感じがしましたね。それまでずっと京都とか沖縄にいたので、久しぶりの東京生活だったんですよ。そんな中で大都会・新宿のミロードとなると、「東京だな!」「資本主義がキラキラしてるな!」って感じがしたんです。それから対談をしたり、飲みに行ったりするようになって、お付き合いをしていただくようになりました。大佛次郎論壇賞をいただいたときには、パーティにもきてくださいました。なので、東京のお兄さんです。
 『野の医者は笑う』は、僕が沖縄のスピリチュアルなヒーラーや占い師、ユタといった人たちと交流する、いわば臨床心理学の外でフィールドワークを行った本です。「科学的」と言われている臨床心理学と、スピリチュアルや占いはどこが同じで、どこが違うんだろうということを考えながら書いたこの本に、鏡さんが関心を持ってくださった。そういう文脈なんです。

  僕たちには共通の関心事項があると思うのです。僕は占いやオカルトから入ったけれど、それは「心理学」のある分野とつながっていると思っていた。東畑さんの『野の医者は笑う』は、心理学の専門家がいわゆる「スピリチュアル」の世界とのつながりを感じ取ったものでした。占いやスピリチュアルと心理学の重なり合う、あるいはぶつかり合う領域に踏み込んでいこうとしていたんですよね。

東畑 実は僕が最初に鏡さんを知ったのは占い師としてではなく、ユング派の分析家ジェイムズ・ヒルマンの『魂のコード』(河出書房新社、一九九八年、朝日新聞出版、二〇二一年)の翻訳者としてでした。ヒルマンは大御所なので臨床心理の偉い先生による翻訳書がたくさんあるのですが、そんな中で翻訳者名に「リュウジ」とカタカナ。しかも名字は「鏡」。この人は何者だって大学の地下の書庫で思いました(笑)。
 何が言いたいかというと、鏡さんはユング心理学と占いのあいだでずっと活動してこられた人だということです。一方で、僕は臨床心理学からはみ出ようとして、『野の医者は笑う』を書いた。それがちょうどかみ合ったのが新宿ミロードだったと思うんです。

  そうですね。僕は十代の頃から占いというかオカルトが好きだったんですが、そのことに恥ずかしさがあって。言い訳をするために色々と探す中で出会ったのが、心理学者のユングでした。不純な動機ではあるのですが、ユングを後ろ盾というか言い訳にしたら妖しい占いや魔術もかっこよく見せられるかなと。眉をひそめる大人や先生に「だってユングも」なんて言えそうだし(笑)。その後、海外にはユング派の分析家でガチの占星術家がいることを知るようになるわけですが……。
 東畑さんはさっき「東京のお兄さん」と言ってくれたけど……だいぶ年くった「お兄さん」ですが……、僕は自己認識としては京都人なんですよ。東畑さんは京都大学の大学院で学んでいたけど、京都は昔からユング心理学の大きなベースになっていました。

東畑 そうですね、「琵琶湖畔とチューリッヒ湖畔でユングが栄えている」と冗談で言われたりしていました(笑)。

  僕が高校生くらいのときだから八〇年代かな、本屋さんに行くとユング関連の書籍がたくさん並んでいました。知的なオカルトの本がたくさん紹介された時代でもあって、今でいう「秘教研究」の先駆的な著作があった。この頃の僕は単なる占いだけではなくて、こういう知的なオカルトの領域に関わりたいと思っていた。ユングはその急先鋒のような存在だと認識していました。
 当時、占いの本は書店だと実用書のコーナーにしかなかったのですが、ユングはやっぱり人文書のような学術的なコーナーに置かれていて、かっこよく見えた。

東畑 なるほど。たしかにコーナーは違いますね(笑)。ただ、小さな本屋さんとか駅ビルの本屋さんに行くと、占いと心理と自己啓発と精神世界は同じ棚に置かれているところもあります。僕はあれが好きなんですよ。野生の本棚です。消費者はそれらをごちゃまぜにしながら読んで、自分の人生に役立てている。学問サイドの分類と、消費者サイドの分類が違うのが面白い。なんか心がモヤモヤしているときに探す本という意味で似た場所に置かれるということなのでしょうかね。

  小さな本屋さんだけではなくて、公共の図書館でも案外そういうところありますよ。心理学、宗教、人生訓、占いがごく近い棚にあったりします。図書分類でそうなっている(笑)。でもやっぱりペーパーバックの「実用」占い本と学問的な心理学とはちょっと違うカテゴリーでしょう。当時はその区別はもっと強かった気がします。
 そんな中で、占いやオカルトっぽい中で装丁もタイトルも立派だったルドルフ・シュタイナーの『神秘学概論』(高橋巖訳、ちくま学芸文庫、一九九八年)という本に出合って、かじってみたんですが……何言ってんだかわからなくて、そっと閉じました。『人間存在は、肉体、生命体、アストラル体、自我という四つの本性部分から構成され……』なんて書いてあるんですもん。「なに言うてはんの?」と(笑)。今だったら「ああ、ギリシャの魂論の焼き直しかな」とかまた違った読み方ができると思うんですけど。
 それで、今度はユングを読んでみることにしました。でもやはり手が出なくて、河合隼雄先生とか秋山さと子先生の解説書を読むんです。最初に読んだのが忘れもしない、河合隼雄先生の『コンプレックス』(岩波新書、一九七一年)でした。シュタイナーと違って、これは理解ができました。一方で「これはまったくオカルト・占いの話と同じだ」と直観したんですよ。

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新刊紹介

東畑開人

臨床心理士・公認心理師。白金高輪カウンセリングルーム主宰。『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』(文春文庫)、『心はどこへ消えた?』(文春文庫)、『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』(KADOKAWA)など著書多数。『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)は第19回大佛次郎論壇賞を、『カウンセリングとは何か 変化するということ』 (講談社現代新書)は新書大賞2026を受賞。

鏡リュウジ

占星術研究家・翻訳家。京都文教大学客員教授。著書に『占いはなぜ当たるのですか』(説話社)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)、『タロットの美術史』(創元社)、『占星術の文化誌』、『鏡リュウジの占星術の教科書 I ~Ⅵ』(ともに原書房)、訳書に『魂のコード』(朝日新聞出版)、監訳に『世界史と西洋占星術』(柏書房)、『タロットと占術カードの世界』(原書房)など。占星術研究の第一人者として幅広く活動中。

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