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メンズ眉毛サロンへ潜入せよ! 眉毛ケアを通じて、おじさんは初めて人の心を知る

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は全身をツルツルにすることに挑んだ著者。今回は、ムダ毛処理の流れで気になった部位、眉毛カットのために初めてサロンを体験したのですが……。
(イラスト/山田参助)

第20回 どうしよう、今、富士そばにいる客の中で、私の眉毛が一番格好良い

 美容活動の一環として「ムダ毛処理」に興味を持ち始めてからというもの、自分の体のある部分がどうにも気になって仕方がない。

 それは〝眉毛〟だ。

 坊主頭、太っちょ体型、丸眼鏡、サブカル系のド派手Tシャツに身を包んだいかにもなルックスに加え、過去の恋愛や恥ずかしい体験をあけすけに綴ることを得意とする(正しくはそれしかできない)ボンクラ中年作家の私。
 見た目なんぞ気にせず、ありのままの自分を晒すことこそが、私にだけ許された生きざま、それこそ一種の美徳であると信じ、己の容姿にできるだけ無頓着に生きてきた。「整い過ぎた花は単調でつまらない」って生け花の偉い先生だってTVで言っていた。そう、手入れがされていないものにこそ真の美しさが宿るのだ。

 そんな風に凝り固まった私の考えを、たった一本の化粧水が大きく変えてくれた。四十路で美容に目覚めてからというもの、日々変わっていく自分の姿を鏡で見ることが何よりも楽しい。
 聞け、世のおじさんたちよ。「だらしなさ」と「格好良さ」は必ずしもイコールにはならない。誰に頼まれたわけでもない「無頼漢」を気取り、変わらぬ自分を愛し続けるのって、実はとってもダサいことなのかもしれない。そろそろ都合のいい自画自賛を言い訳にして生きるのはやめにしてみよう。

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 だから私は、散々伸ばし放題にしてきた眉毛をきちんと整えてみたくなったのだ。

 過去、何度か眉毛を綺麗にしていたことはある。ヴィジュアル系バンドに憧れていた高校生の頃なんかは、音楽雑誌のアーティスト写真を参考に、見様見真似の超極細眉毛で学校に通ったものだった。
 トークイベントやサイン会のような人前に出る機会には、眉毛を若干整えるようにはしていたのだが、百キロをゆうに超える巨体に坊主頭、黒マスク、そこに極細眉毛が合わさると、待っているのはご覧の通りの悲惨な結末である。

かつての怖い眉毛時代。
かつての怖い眉毛時代。

 初犯の顔ではない。
 この風貌の男に職務質問をしない警察官がいたら、それは立派な職務怠慢である。

 この写真からも分かるように、私には自分で眉毛を整えるための技術が圧倒的に足りない。解決の糸口すらわからない。そこで私は、男性専用の眉毛サロンを頼ることにした。なんでも困ったときは専門家に聞くのが一番である。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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