よみタイ

国際宇宙ステーションで宇宙飛行士は何をしている? 「作業員」としても優秀な彼らの仕事を紹介!

無重力で炎がどう燃えるか、考えたことはありますか? 実は炎は、重力の影響をもろに受けていて、無重力の環境では炎の挙動が地球上とは異なります。ろうそくに火をつけた時の炎の形を想像してください。上にいくにつれて先細り、下部はふっくらしている形を思い浮かべましたね? これは、重力によって火をつけた空間に気流が生まれるから作られる形なのです。一方で無重力になるとそうはなりません。宇宙でろうそくに火をつけると、炎は丸くなります。その影響で、例えば何かに火が移ってしまった時の燃え広がり方や、材質による燃え方の違いなども大きいとされています。さまざまな材質や燃料、シチュエーションを試す宇宙の実験装置のおかげで、その知見は溜まってきています。宇宙ステーションでは宇宙飛行士ごとにミッションが割り振られるため、宇宙飛行士が入れ替わると実験の内容がガラッと変わることがあります。その中でもこの燃焼実験は、宇宙飛行士が入れ替わっても継続的に実施されており、その注目度が高いことがうかがえます。

なぜ、燃焼実験は宇宙飛行士の仕事として常にミッションに組み込まれるのでしょうか? それは将来の宇宙開発の安全性のためです。今は宇宙ステーションにしかいない人類ですが、今後月面への移住やより遠い宇宙に向けて飛び立つ時がくるかもしれません。その時に基地や宇宙船における⽕災を想定し、適切な素材を選ぶ基準を作るための判断材料になります。その選定を今宇宙で行っているのが、宇宙飛行士と言えます。地上で断熱材などの研究をしている研究者の宇宙バージョンであり、決められた材料や環境を宇宙で調整し、実験を施し、結果を地上に送るのが宇宙飛行士の仕事です。

古川宇宙飛行士をはじめとするISS第69次長期滞在クルーたち 写真提供:JAXA/NASA
古川宇宙飛行士をはじめとするISS第69次長期滞在クルーたち 写真提供:JAXA/NASA

炎と相反する水も、宇宙では地球上とは違う動きを見せます。無重力の状態で水滴を空中に放つと、炎と同じように球形になります。宇宙飛行士が撮影した映像で見たことがある人も多いのではないでしょうか? これも重力の影響を実際に見ることができるいい例です。連載の第1回で月に水がたくさんありそうだ、という話をしました。月の表面の重力は地球の1/6なので、月面での水が地球上とは違う姿を見せるかもしれませんね。水も炎も無重力では地球上と異なる姿を見せているように、重力から解放された物事がどう動くのかをしっかり把握しておくことが、今後の宇宙開発にとっては重要になりそうです。そういったノウハウを貯めていくための実験を担う宇宙飛行士の仕事は重要だと言えます。

炎と水。身近で重要なテーマを紹介しましたが、無重力環境を生かしたまさに最先端!と言える「人工的に臓器を作る」ための実験も、注目したい事例の一つです。

1 2 3 4 5

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
Spotify版「宇宙ばなし」
Apple Podcast版「宇宙ばなし」
X @_ryo_astro  

週間ランキング 今読まれているホットな記事