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国際宇宙ステーションで宇宙飛行士は何をしている? 「作業員」としても優秀な彼らの仕事を紹介!

国際宇宙ステーション内での仕事について紹介しましたが、宇宙飛行士たちは、外での作業も担当します。国際宇宙ステーションにはロボットアームがついており、船外にさまざまな装置を設置することができます。このような「工事現場」のような一面もあり、その作業員として働くのも宇宙飛行士です。内側も外側も含めて国際宇宙ステーションは、大規模な実験施設なのです。

ISSから撮影された船外実験プラットフォーム。その先には月が見える 写真提供:JAXA/NASA
ISSから撮影された船外実験プラットフォーム。その先には月が見える 写真提供:JAXA/NASA

実は、僕がチームの一員として運用とデータ分析を担当していた実験装置も国際宇宙ステーションの外側に設置されています。「MAXI」(Monitor of All-sky X-ray Image)と呼ばれる観測装置は、2009年に今やベテランの若田宇宙飛行士によってロボットアームで設置されました。天体から飛んでくるX線を見る“目”が搭載されており、宇宙全体を見る「宇宙の監視カメラ」のような装置です。宇宙からは人間の目には見えないさまざまな光が飛んできていて、特にX線は地球大気がバリアのような役割をしていることで、地上からは見ることができないため、宇宙に行くことでしか観測できません。この点は宇宙空間ならではの実験と言えますが、宇宙のX線を見ることでどんなことがわかるのでしょうか?

例えば、ブラックホールを観察することができます。ブラックホールは光すらも吸い込んでしまい目には見えません。しかし、ブラックホールに吸い込まれていく宇宙空間の物質が、断末魔の叫びをあげているかのようにX線を放射しています。これをMAXIによって観測することで、ブラックホールの研究が盛んに行われるようになりました。実はブラックホールの存在を観測的に明らかにしたのは、このX線天文学であり、日本が世界をリードする分野なのです。

私は約6年間、この観測装置の運用やデータ分析の仕事を担当していました。理研、NASAでもこの研究に従事し、その中で新しいブラックホールを発見したり、エキサイティングな研究をたくさん経験したことが、この記事の執筆につながっていると言っても過言ではありません。X線天文学は誕生から60年程度と歴史が浅くはあるものの、日本が世界を引っ張ってきた分野でもあります。2023年9月には日本のX線分光撮像衛星「XRISM」が打ち上がり、国際的にもその存在感が増していくことも期待されています。この辺りのトピックも連載の中で紹介していきます。

このように、物を燃やしたり、水などの流れを見たり、臓器を作り出そうとしたり、ロボットアームを操縦したり、多岐に渡る作業の遂行が要求されるのが宇宙飛行士なのです。地球外の条件下での様々な実験を行い、データを収集することで新たな科学的発見や技術の進歩がもたらされます。
彼らが携わる実験は、地上で研究を行う国や大学、企業の研究者たちから集められたテーマが多いです。こういった宇宙環境を利用した実験は世界中の研究者たちが行いたいと考えている一方で、実施できる場所が国際宇宙ステーションのみであることから、非常に高い倍率となる傾向があります。その高倍率の選考をくぐり抜けた研究を無重力で遂行することが宇宙飛行士の仕事の一つであり、責任を持って正確に実験ができる能力が求められるので、一般的に見て「優秀」と言われるような方に決まるのでしょう。

この記事のお供はこのお酒!

山梨県北杜市のブルワリー「うちゅうブルーイング」のビール「PHOTON BlackBerry&BlueBerry」。宇宙業界の人はもちろん、ビール好きには有名なブルワリーが出したスムージーサワーエール。光子という意味を持つこのビール。国際宇宙ステーションを介して、星から届く光子を観測してきた私の研究にまさにピッタリだと思いピックアップしました。果物を食べているかのような甘みととろみのあるビールは、食後にピッタリ。

 次回連載第4回は12月22日(金)公開予定です。お楽しみに!

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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