2019.10.6
東京五輪で6回目の出場。飛び込み寺内健は、「生きざま」と「生きがい」を1.6秒に込める!
飛び込みは演技が完璧でもダメ。生きざまが映って10点になる!
飛び込み界のレジェンド、寺内健は“今が旬”の鉄人である。
7月の世界水泳選手権(韓国)、男子シンクロダイビング3m板飛び込み決勝。ひと回り年下の坂井丞とのペアで7位に入り「東京オリンピック内定」をつかんだ。夏季オリンピック6度目の出場は馬術の杉谷泰造に並ぶという。マレーシアで開催された9月のアジアカップでは男子3m板飛び込みで優勝を遂げ、個人でも東京オリンピック出場を決めたのだった。
39歳にして競技の第一人者。1.6秒というオリンピック種目で最も時間が短い競技を、ずっと突き詰めてきた。
純粋な競技愛と厳格な求道心。
一瞬の勝負を制すために、彼が大切にしようとしているものはそれだけではない。寺内がずっと大切にしているのが「生きざま」である。
8月下旬、彼の地元であり練習拠点を置く兵庫・宝塚を訪れた。
背筋がピッと伸び、キビキビしていて一つひとつの動作にスキを見せない。それでいて柔らかい雰囲気を醸し出す。そんな寺内に、道を究めるために大切なものは何かと尋ねてみた。
誠実な人は、真っ直ぐな目線で言った。
「審判から(満点の)10点をもらおうと思ったら演技の完成度の100%にプラスして生きざまだと思うんです。これまでどれだけ苦しんできたか、どういう思いがあってどういう練習をしてきたかっていうものがパフォーマンスの奥に映っていると僕は思うんです。演技だけが完璧でもおそらく9点までしか出せない。生きざまが映って10点になる。だから僕は日常から大切にしていかなきゃいけないって思っているんです」
生きざま。
すなわち、人が生きていくありさま。その態度。
彼は完璧な1.6秒を成すために、1日24時間に「内観」の糸を張る。スーツケースを飛び込み板と見立ててその端に靴を並べ、この日も撮影用に着たジャージーを丁寧かつきれいに折り畳んだ。几帳面な性格というよりも、飛び込みで結果を得るための欠かせない日常の所作としているだけだ。
「たとえば階段を左から昇るというのは決めています。もし右足からになってしまったら、1度降りてから昇り直します。なぜルーティンを崩してしまうのかと言ったら、ボーっとしている証拠。それじゃダメなんです。タオルの畳み方は20年以上、同じようにしています。試合前に聞く音楽も大事にしていて、そのときになって決めるんじゃないんです。好きなヒップホップ、ファンク、ソウルミュージックのなかで、遠征に行く前から“今回はこれにしよう”と決めておくんです」
練習も100%、練習以外の日常も100%。1.6秒を制すためにここまで徹しなければならないということ。
寺内は小学5年生で飛び込みを始めて以来ずっと師事しているコーチがいる。
厳しく自分を育て、成長させてくれた馬淵崇英コーチに少年時代、常日頃言われていた言葉があるという。
「飛び込みだけ良くてもいい選手になれるわけじゃない。人間として成長しなければ成績も良くならないし、誰からも応援されない」
寺内少年の心にグサリと刺さった。
競技の都合で学校に行けないことも良くあった。だが、自主学習で授業の遅れを取り戻し、勉強や学校生活にも一切手を抜くことがなかった。人としての成長が飛び込みの成績につながる――。高校1年生でアトランタオリンピックに出場するなど日本飛び込み界の中心となっていく寺内がシドニー、アテネ、北京と4大会連続で出場できたのも、人間力を高めていくことができたからだ。