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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」

東京五輪で6回目の出場。飛び込み寺内健は、「生きざま」と「生きがい」を1.6秒に込める!

常に自分と向き合い続けてきたからだろう。どんな質問にも、よどみなく理路整然として話す。(撮影/熊谷貫)
常に自分と向き合い続けてきたからだろう。どんな質問にも、よどみなく理路整然として話す。(撮影/熊谷貫)

試合前日の状態が良くなかったときに、いい結果が出ることが多い。

飛び込みは、空中で回転、ひねりを加えたフォームを披露して入水する採点競技。踏み切りの姿勢、フォームの美しさやその難易度、入水における姿勢、角度が採点の基準となる。競技者は水しぶきの上がらない「ノースプラッシュ」と呼ばれる完璧な入水を目指す。

飛び込みは恐怖心との戦いだという。
いくらキャリアを積んだところで消えたことはない。

「高いところからプールに飛び込む恐怖心ではありません。板ギリギリに飛び過ぎて頭や体をぶつける怖さがあります。どうやったってその恐怖心は消えないもの。でもそれがあることで集中力は高まるんです。自分のコンディションの確認や、ウォーミングアップの段階で前日との比較もしなければならない。恐怖心を持っていることで逆に本来の自分が見えてきます」

恐怖心と不安は似ている。
これらを除外するのではなく、むしろ「一緒に付き合っていくもの」と寺内は捉える。だから恐怖心や不安が増大したところでバタつかない。「内観」の日常があるから、むしろその元にあるものは何か、やわらげるものは何かを的確に探し出せる。

恐怖心や不安は、極度の集中(ゾーン)を呼び込むものでもある。
あのときもそうだった。

2001年、福岡で開催された世界選手権。ひざ痛で練習ができないまま臨んだ3m板飛び込みで彼は日本人初のメダルとなる銅メダルを獲得したのだ。

寺内は言う。

「結局積み重ねてやってきても、いろんな状況の変化に対応するにはアドリブ力が必要なんです。要は無心で体がオートマチックに動かなければ最高の演技ってできない。言わばその力をつけるための練習でもあります。あのときも開き直りから、ああいったパフォーマンスが出せた。
(近年も)何回かゾーンに入ったなと思えたことはあるんですけど、決まって試合前日の状態が良くなかったとき。むしろ前日に調子いいと不安になってきます(笑)。明日はやるしかないって、いい意味での開き直ったときにゾーンに入ることができている。ただ、(2001年の世界選手権のパフォーマンスを)なかなか超えられないというジレンマはずっとあります。今のほうが技術は上。もう1個突き詰めた集中力が必要なのかなとは思っています」

恐怖心や不安の反動で極度の集中を得るのではなく、自然とその状態に入っていくために――。日常生活、ルーティンにこだわり、人間力を高めていくのもその一環だ。

極度の集中に入ることを、彼は「スイッチ」と表現する。優勝して東京五輪切符をもぎ取ったアジアカップはその成功体験とも言っていい。

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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