2021.8.20
夏休みに流れた噂
まだ陽は落ちていないが、山中はやけに薄暗く、まるで夕暮れ時のようだった。鬱蒼とした林の陰に、白いものが佇んでいるのがチラリと目に入る。
声を押し殺して近づいていく。するとその分、シロンボもゆっくり四つんばいで歩を進め、またぴたりと立ち止まる。
静かな追跡が繰り返されるうち、四人は小さな洞窟へと誘い込まれていった。
この場所なら、彼らも知っている。昔は小さな祠が置かれていた洞窟だ。土砂崩れが起きてからは入り口も狭くなり、立入禁止の黄色いテープが張られるようになった。でも子どもなら、頭をかがめればなんとか侵入できる。シロンボの後ろ姿は、その穴へと消えていった。
ケータイのライトをつけ、四人は穴の中を覗いてみた。内部は崩れ落ちているから、洞窟といってもすぐ行き止まりとなっている。そして確かにシロンボは、ケータイの明かりが届くところにしゃがんでいた。
先頭のD君が悲鳴をあげた。四人とも大慌てで走り去っていった。
遠ざかる声は、口々に僕の名前を叫んでいた。
夏の初めに川で溺れ、まっ白い体で発見された、僕の名を。
それからというもの、「シロンボ」という呼び名の代わりに、僕の名前が、子どもたちの間でささやかれるようになったのだ。
8月6日 あの家に住んでいた頃のこと
8月9日 川の上流から流れてくるもの
8月13日 「チヨちゃんが来たんだね」
8月16日 小人が見える女子大生
8月20日 夏休みに流れた噂
8月23日 振り向いてくれない美人教師
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7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの