2026.7.23
“世界初のインターネット探偵”も登場! 異様な熱量で未解決事件の犯人と真相に迫るアメリカの市民探偵たち
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第8回は、ニコラ・ストウ著:村井理子訳『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』を取り上げます。
世界初のインターネット探偵
1998年、ダイアルアップ接続のインターネットをフル稼働させて、長らく身元不明だった殺人事件の被害者の身元を突き止めた男がいる。その名は、トッド・マシューズ。
「テント・ガール」と呼ばれた女性の身元不明遺体がケンタッキー州で発見されたのは、1968年。仕事と家族を持ちながら、ボランティアで10年以上もこの事件を追い続けたトッドの奮闘によって、1998年に警察は被害者の身元と容疑者を特定した。残念ながら容疑者はすでに死亡していたため事件解決には至らなかったが、その糸口をつかんだトッドは当時、メディアから「世界初のインターネット探偵」と称賛された。
『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』(著:ニコラ・ストウ、訳:村井理子)には、トッドのように未解決事件の解決に情熱を燃やす市民探偵たちが登場する。彼らが挑むのは、ほとんどが自分と縁もゆかりもない事件。にもかかわらず、「なにかにとり憑かれたように」という表現がしっくりくるほどの没頭ぶりで真相に迫る。
例えば、アメリカで「イーストエリア・レイピスト」「オリジナル・ナイト・ストーカー」の呼び名を掛け合わせた「EARONS」のニックネームで知られる「黄金州の殺人鬼」の事件では、ノンフィクション作家のミシェル・マクナマラが立ち上がる。次の記述だけでも、ミシェルの熱量が窺えるだろう。
「ミシェルは娘のプレイルームを研究室に変え、そこに設置した机から二十四時間体制で、自らの日課である『殺人調査』をしていた。ミシェルはEARONSの謎を解明するためなら、手段を選ばなかった」
興味深いのは、この殺人鬼がカリフォルニア州(黄金州)で50件の強姦事件と少なくとも13件の殺人事件を起こしたのは1974年から1986年にかけてのことで、ミシェルが調査を開始したのは2010年ということ。
最後の事件から24年も経ってこの未解決事件に着目したミシェルは、まさに手段を選ばず、証拠となる資料を保安官事務所から持ち出すという、逮捕される危険を冒してまで犯人探しに執着する。ついには、同じように個人的にこの事件を追っていたポールという人物を「主任調査員」として雇用するほどの熱の入れようだ。
マクナマラは自身もかつて性被害を受けており、この事件の被害者に心を寄せていたのではないかという記述があるが、それにしても「なぜそこまで?」と疑問がわくほどの執念。オカルト的な視点なら、被害者の魂がふたりを駆り立てているのでは?と感じるほどだ。
ふたりは二人三脚で膨大な人物リストを構築し、そのなかから容疑者を炙り出す作業に取り組む。数年間に及ぶこの調査は、信じられない悲劇に見舞われながらも、運命的な結末を迎えた。ふたりがどうなったのか知りたい人は、ぜひ本書を手に取ってほしい。
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猟奇犯を追い詰める市民探偵たち
市民探偵たちは、「テント・ガール」や「黄金州の殺人鬼」のような過去のケースだけでなく、現在進行形の事件にも迫る。「猫いじめに断固NO!:虐待動画の犯人を追え」の章では、何人もの市民探偵たちが共闘して猟奇的な殺人犯、ルカ・マグノッタを追跡する。
ことの発端は2010年12月、YouTubeにアップされた二匹の子猫を虐殺する動画。この動画を目撃してしまった視聴者の一部が、怒りに駆られて犯人の特定に動き始める。
その後、自分が追われていることを知る犯人からの接触など紆余曲折を経て、メンバーたちはGoogleマップを駆使して犯人の居場所をつきとめ、その情報を警察に共有する。しかし、その部屋はすでにもぬけの殻だった。
これで事件は迷宮入り……とはならない。自分を追跡する人たちを嘲笑うかのように、再びネット上に姿を現すルカ・マグノッタ。ここから、「いつかターゲットにされるかも……」と怯えながらも犯人逮捕を諦めないメンバー、さらに大手メディア、警察まで巻き込んだ追跡劇が幕を開ける。
この章は、Netflixで同名のドキュメンタリー作品として公開されている。主要な追跡メンバーがインタビューに応えており、「こういう人たちが犯人を追い詰めたのか!」という面白さがあるが、より詳細に事件の裏側を知りたい人は、ぜひ本書を読むべきだろう。
「猫いじめに断固NO!:虐待動画の犯人を追え」という章タイトルはライトな雰囲気ながら、個人的には本書に登場するなかでもこの事件が最もスリリングだった。数十年前の事件ではなく、現在進行形で罪を重ねる犯人をリアルタイムで追うという展開もあるけれど、なにより犯人のルカ・マグノッタの存在感が強烈だ。
常人の想像を超えた自己顕示欲、承認欲求を持つルカ・マグノッタは、自分への注目を燃料にするように加速度的に狂気の度合いを増していき、その犯行は読んでいるだけで胸焼けしそうになる。ただ、「こういう人、日本にもいるかも……」と思える妙なリアリティもあるのだ。第二のルカ・マグノッタが日本で現れる可能性もある。その時は、日本のネット探偵たちの活躍に期待したい。

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