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「結婚しているか、子どもがいるかで女性はステイタスが変わる」……ナイジェリアからやってきたエロホ(第8回 前編)

フィンランドの首都・ヘルシンキにある「ヘルシンキ労働者学校」。
100年の歴史をもつこの場所で、元新聞記者の堀内京子さんはフィンランド語の教室に通いはじめました。
そこで出会ったのは、いろいろな国からそれぞれの理由で、この街へ来ることになったクラスメイトたち。
生まれ育った国を出る決断の背景には、どのような物語があるのでしょうか。
「ほぼ全員が(フィンランドの)外国人」という教室で交差した、ひとりひとりのライフヒストリーを紹介するルポ連載です。
今回は、教室で出会ったシングルマザーのエロホに話を聞きます。

第8回「家のない子に学校を建てたい」と言ったエロホ 前編

「もしも宝くじで100万ユーロ(約1億8900万円)が当たったら、あなたは何をしたいですか?」
 ある日、フィンランド語のクラスで先生が聞いた。「もし~なら」という文法を習う時間だったが、暗くて長い冬に気持ちが沈みがちだったクラスの中に、突然、欲望が渦巻いた。
「お城を買いたい」
「車を買います」
「サッカーのW杯をスタジアムで見たい」
「世界一周旅行がしたい」
 私も「旅行して、もう少し大きい部屋に住みたい」と答えた。
 あれも、これも。買いたいものや、やりたいことが次々に出てきた。そのとき、先生に当てられた誰かが、
「家がない子どものための家と、学校を建てたい」
と答えた。
 ええ、誰なの……私は思わず、振り返って後ろの席を見た。そこに、背筋をまっすぐのばしたナイジェリア人のエロホが照れるでもなく座っていた。
 アフリカ系で女性のクラスメイトは珍しかったので、ゆっくり話してみたいと思っていた。いつも授業が終わると慌ただしく帰っていくので、声をかけづらかったのだけれど、「学校を建てたい」の一言で背中を押されて、学校の食堂で話を聞かせてもらうことになった。そこで、私たちはすぐ、意外な共通点があることに気がついた。大学でジャーナリズムを専攻していたという彼女と、新聞記者だった私は重なるところが多かった上に、ジェンダーギャップ指数で日本は全148ヵ国中118位、ナイジェリアは125位と近いところにいたのだ(日本の順位は日本の女性たちには見慣れたものだと思うけれど、エロホにはたいそう驚かれた)。そして、私たちはどちらも70年代生まれ、現在はシングルマザーで、馴染みのない外国にやってきて子どもを育てている。
 

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 エロホは、1978年にナイジェリア最大の都市で経済の中心地、ラゴスで生まれた。7歳のとき、両親が離婚。「ナイジェリアではだいたい、父親が親権を持っていた。父親が許可すれば母親が親権を持つことができるけど」とエロホ。公務員だったお母さんは、エロホを置いて家を出るしかなかった。父が再婚した継母は結婚後に生まれた兄弟たちをかわいがり、長女のエロホにだけおやつをくれないなどのいじわるをしたという。
「でも、兄弟の仲はよかったの。妹や弟たちが私にそのお菓子を持ってきてくれて、一緒に食べたりしてました。だから今でも仲がいいの」
 ナイジェリアには多くの新聞読者がいて、新聞は議論の場の役割もあった。政治や民主主義、広報などに興味があったから、大学ではジャーナリズムを専攻した。インタビューや調査も好きだった。大手の全国紙でインターンシップもした。「普通にしていたら、『女は仕事ができない』と言われる。ビジネスの世界では、タフでないとね」と教えてくれたのは、編集局にたった一人だけいた女性の記者だった。エロホは「男社会」のナイジェリアで仕事をしている女性上司に感銘を受けたという。
 その後、国の電信通信省に入り、(現在のFederal Ministry of Communications, Innovation and Digital Economy:連邦通信・イノベーション・デジタル経済省)、長官のスピーチやテレビや新聞向けのプレスリリースを書いたり、メディア対応をしていた。そこで17年間働いた。最後は4人の部下を持つチーフ長で、給与もよかったという。
 当時のエロホのまわりの社会や職場では、女性たちは既婚か独身か、また母親かどうかというステイタスで評価が変わった。結婚していない女性は尊敬されず、仕事で発言しても取り合ってもらえないという。結婚しても、子どもがいなければだめだったという。
「男の人も、子どもがいないとだめだと言われるの?」と私が聞くと、
「男の人は独身でも子どもがいなくても、いずれにしても大事にされるから変わらないよ」とエロホ。
「私には母親の違う妹が4人、弟が1人いたけど、おばあちゃんはいつも『あなたのお母さんは子どもを1人しか産んでいないねえ』って言っていた」

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堀内京子

ほりうち・きょうこ
ライター。1997年から2023年まで新聞記者。退職し、現在は二人の子どもとヘルシンキに滞在。著書『PTAモヤモヤの正体』(筑摩選書)、共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社) 『ルポ税金地獄』(文春新書)、朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班として『ルポ若者流出』(朝日新聞出版)がある。

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