2026.9.13
この存在がほとんど知られていないなんて! 奥羽山脈の深山に潜む天然橋 大東岳の「北石橋」【山の名&珍プレイス 第10回 後編】
本連載では、アウトドア雑誌や山登りの指南本、TV番組や各種イベント出演でもおなじみの山岳ライター・高橋庄太郎が、豊富な山経験をもとに、自分の足でわざわざ見に行く価値がある、こだわりの山の名スポット・珍スポットを紹介していきます。
硬いものの代名詞ともいうべき「岩」ですが、数万年という単位で少しずつ姿を変化させ、そのなかにはその上を歩いて渡れそうなアーチ状の形になっているものもときどき生まれてきます。つまり「天然橋」といわれる岩の橋で、これはまさに自然の造形美です。前編に続いて、
後編でご紹介するのは、ただでさえ珍しい天然橋のなかでも、その下を水が流れているというとても珍しいタイプ。知る人ぞ知る穴場中の穴場です。
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山奥だけど、大都市・仙台にも近い山塊のなかに……
長ければ数万年におよぶ長い年月の間の水流や風化によって、自然に岩がアーチ状に形作られていったのが、「天然橋」だ。日本にも意外と多くあるものの、その多くは波の力によって生まれた海岸付近。海ほど水の影響を受けない山中では少々珍しく、しかも天然橋の下を貫通するように水が流れている場所は、ほとんど見つからない。
そんな貴重すぎるスポットが、宮城県中央部、大東岳の「北石橋」だ。日本屈指の大山脈である奥羽山脈に位置し、そこから流れ出る清水によって作られた二口渓谷の源流に近い場所にひっそりと眠っている。前編で紹介した広島県の帝釈峡「雄橋」が国の天然記念物に指定され、大駐車場が整備されている観光地なのに対し、こちらはほとんど知られていない地味な存在である。

しかし、北石橋は「洞窟が貫通してトンネル」になっていて、「その下にきれいな水が流れている」点は雄橋と似ているが、「歩いてしか行けない深山」というのが大きく異なる。つまり、雄橋よりもはるかに原始性を帯びているのだ。
登山道がつけられていない源流に近い沢の中であれば似たような地形もあるだろう。だが、ここは一般登山道を使えばアプローチ可能。僕は長らく山の仕事をしているが、このように深山にありながら「見に行こうと思えば行ける」天然橋は、北石橋以外に知らない。
なお、北石橋と書いて「きたいしばし」ではなく、「きたしゃっきょう」と呼ぶ。「石橋」を「しゃっきょう」と読むのは、非常に仏教的だ。たんなる自然の造形を超え、仏教の教えまで伝えてくれそうな神秘的な場所なのである。

地元の人でもあまり知らない、日本でも稀な自然の造形美
大東岳自体はとても人気の山で登山道が縦横に延びており、北石橋に向かう登山道もつけられている。しかし、歩くとわかる。その北石橋への登山道は他のコースに比べて落ち葉でフカフカとしており、少し柔らかな感触なのだ。これは多くの登山者は歩いておらず、登山道が踏み固められていないことを意味している。実際、整備が行き届かず、踏み跡のようにしか見えない区間もあるくらいだ。
じつはこれを書いている僕は、仙台市の出身。ときどき地元でトークイベントを行なっているが、あるとき会場で北石橋の話題を投げかけ、「北石橋に行ったことがある方は?」と挙手してもらったところ、約30人のうち、自分の目で見たことがある人は3~4人程度しかいないのに驚いた。それも、北石橋自体を知らない人が大半だ。それほど地元の人にも認識されていないのである。

北石橋に向かう人が少ないのは、途中で大きな沢(大行沢)を横断しなければならず、大東岳の山域では少しハードだからかもしれない。通常の水位であれば橋がなくても横断できるが、増水しているとかなり危険な状況にもなりうる。実際、強い水流に負けて渡渉しきれず、死亡事故も発生している。


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