2026.4.23
頂き女子りりちゃんは現代の魔女!? 人心を操る天賦の才で取材相手をも惑わせる
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第5回は、宇都宮直子著『渇愛 頂き女子りりちゃん』を取り上げます。
ベテラン記者を魅了したりりちゃん
「りりちゃんは、魔女だったんだ」
『渇愛 頂き女子りりちゃん』(小学館)を読んで、そう感じた。
「おぢ」と呼ぶ中高年男性から、1.5億円超のお金を騙し取った「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣が逮捕されたのは2023年8月。本書は、フリーランス記者の宇都宮直子が獄中のりりちゃんと23回の接見を重ね、その正体に迫るノンフィクションだ。りりちゃんの母親や約3800万円を巻き上げられた被害男性、大金を貢いだホストなどにも取材をした力作で、「第31回 小学館ノンフィクション大賞」を受賞している。
ここで改めて、りりちゃんの罪状を確認しよう。「おぢ」たちから金銭をだまし取る方法を記載したマニュアルを販売したことによる詐欺幇助罪と、3人の男性から約1.5億円を巻き上げた詐欺罪、所得税法違反(脱税)に問われ、2025年1月に懲役8年6月、罰金800万円の刑が確定した。
本書には、被害男性とりりちゃんの出会いから騙されるまでの具体的な過程や、情報商材に詳しい指南役が絡むマニュアル誕生の裏側などニュースでは知り得なかった事件の詳細が描かれている。それはそれで非常に興味深いのだけど、僕が本書に注目したのは、りりちゃんと宇都宮のやり取りそのものだ。
拘置所での面会時間は、15分しかない。この限られた時間のなかで、りりちゃんは宇都宮を翻弄し、魅了する。ベテラン記者としてこれまでさまざまな人間に取材を重ね、酸いも甘いも知るはずの彼女が、あからさまにのめり込んでいく。本書でりりちゃんが「魔法少女」と名乗り、詐欺マニュアルのタイトルが「りりちゃんの魔法」だと知った僕は、「これは、魔女の魔術だ」と得心したのだ――。
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「ホス狂い」のカリスマ
著者の宇都宮は、『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』(2022年8月刊行/小学館新書)の執筆のために、一時期、歌舞伎町に住んでおり、その時からりりちゃんのことを知っていたという。というのも、自身の身を滅ぼすほどホストに入れ込む女性、通称「ホス狂い」の間で、りりちゃんはカリスマ的存在になっていたからだ。
なぜか? 宇都宮は3つの理由を挙げる。ひとつは、詐欺マニュアル「りりちゃんの魔法」の存在。被害者となるターゲットを「おぢ」と呼び、詐欺行為を「頂き」と言い換えることで「カジュアル化させてとっつきやすくした」と指摘する。さらに、りりちゃんは購入者に対して、メッセージや通話を通して個別相談に乗った。この手厚い「アフターサービス」も含めて口コミで評判が広まり、1万円から3万円という高額にもかかわらず、約1000人が購入したと報じられている。
もうひとつは、宇都宮が「型破りな豪快さ」と表現する破天荒な振る舞い。りりちゃんは被害者から巻き上げたお金をホストクラブ通いに費やしていた。詳しくは本書に記されているが、“推し”のホストが2900円で買った酒器を1250万円で買い取るなど、常識外れの大盤振る舞いで「毎晩のように『伝説』を更新」していたという。
3つ目が、SNSやYouTubeによる情報発信。インパクトのある容姿、独特の言葉遣いで「もはや一線を越えているのではないかと心配するような過激な内容の配信や投稿」を繰り返すことで、ファンを増やした。
宇都宮は、「ホス狂い」のなかでも異質の存在だったりりちゃんの「素」が知りたくて公判に足を運び、面会に通うようになる。
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初めての面会は「りりちゃん劇場」
初めての面会は、2023年12月8日。この日、りりちゃんに圧倒される。
「とにかく印象的だったのは渡邊被告が終始ハイテンションだったことだ」
宇都宮は初回の面会について記すなかで、りりちゃんの様子について、3度も「まくしたてる」という言葉を使っている。そして、「まるで『りりちゃん劇場』を観ているような15分の接見」と表現している。それぐらい強烈なマシンガントークだったのだろう。
取材対象とするジャンルは異なるものの、インタビューをして原稿を書くという意味で宇都宮と同業の僕がその場にいたら、間違いなく困惑する。今後の取材を続けるべきか、悩む。宇都宮も戸惑ったに違いない。
りりちゃんの魔術は、ここから発動する。初対面から半月後、りりちゃんから宇都宮宛てに手紙が届くのだ。白い便せん5枚が、「大きさの揃った丁寧な文字」で埋まっている。その手紙のなかで、ある一文に引っ掛かりをおぼえた宇都宮は、りりちゃんの生い立ちを知ろうと2回目の面会に向かう。
2回目の対面は、「かなり落ち着いた印象」で「表情も穏やか」。その際にりりちゃんから父親のDVについて話を聞いた宇都宮は、「どれだけの絶望を味わったことだろうか」と同情を寄せるようになる。
この面会後、毎週月曜に手紙が届くようになり、宇都宮はりりちゃんと文通を始める。その間に行われた公判で母親との複雑な関係も明かされると、弁護側の「家庭に居場所がなかった」という主張に共感する。
そして、3月15日に行われた第4回の公判で「懲役13年、罰金1200万円」の求刑があった後の手紙に、ショックのあまり自傷行為をしたと記されているのを見た宇都宮は居ても立っても居られず、りりちゃんが収監されている名古屋に駆け付ける。ところが、りりちゃんは「拍子抜けしてしまうほどの笑顔」で現れ、宇都宮がいかにも興味を持ちそうな、記事にしやすそうな話を提供するのだ。

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