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特殊詐欺の被害総額60億円! 犯罪集団「ルフィグループ」の実態に迫る

国内外のさまざまな人、モノ、場所を取材してきたライターの川内イオ氏。
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第9回は、栗田シメイ著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』を取り上げます。

ルフィグループ幹部と重ねた面会

「『闇バイト』という造語の発案者は私です」

 まともに生きたいなら、絶対に手を出してはいけない「闇バイト」。この言葉を生み出したと主張しているのが、フィリピンを拠点に日本での特殊詐欺、広域強盗事件を主導した「ルフィグループ」の幹部、小島智信だ。

 ルフィグループの罪状は、逮捕者40人以上、被害総額60億円、強盗事件による死者1名、負傷者多数に及ぶ。SNSで闇バイトの募集をかけ、匿名性の高いアプリで指示を出すというそれまでにない犯行から、警察庁が2023年7月に「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」という言葉を正式に使い始めたきっかけになった事件である。

 グループの幹部が人気マンガ『ONE PIECE』の主人公の名前を犯行時のコードネームに使っていたこと、企業のような組織形態、被害者や被害額の多さ、犯行の残忍さなどからルフィグループという犯罪組織の名は全国的に有名になった。しかし、組織の成り立ちや内部事情、フィリピンでの生活などは断片的な情報しかなく、謎に包まれていた。

 その全容解明に挑んだのが、『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)だ。ノンフィクションライターの栗田シメイが小島との40回弱に及ぶ面会、約200枚の手紙で得た情報、さらにグループのメンバーで「伝説のかけ子」を自称する山田李沙から寄せられた400枚の手記、出自や事件の詳細を記した6冊のノート、フィリピンでの現地取材などをもとに、ルフィグループの実態に迫る。

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ルフィグループの濃すぎる面々

 本書を読了して、僕の頭のなかには「事実は小説より奇なり」という言葉が浮かんだ。ルフィグループのキャラが、とにかく特濃なのだ。

「凄腕のアイデアマン」「マインドコントロールの天才」と評される組織のリーダー、渡邉優樹。無類の女好きで、日本人妻との間に2人の子どもを持ちながら、ルフィグループのメンバーの日本人女性、フィリピン人の妻と恋人を現地で囲い、2億円以上の金を毎日カジノで使う異常な生活を送っていた。

 セリフを暗記するほどの『ONE PIECE』の大ファンで、犯行時にルフィと名乗り、幹部のグループチャット名「キヨピース🏴お前も仲間になれっ!」の由来となったのは、強盗事件を主導した今村磨人きよと。「仲間」や「友情」を大切にするマンガの主人公とはかけ離れた人物で、渡邉から「悪魔みたいな奴」と評されていた。

 渡邉のもとでナンバーツーを務めた小島は、「雑用のエース」だった。複雑な家庭環境に育ち、2度少年院に入りながら、簿記2級など複数の難関資格を取得する頭脳を持つ「資格オタク」で、ITの知識にも秀でていた。

 ナンバースリーの藤田聖也は20代の頃から渡邉のビジネスパートナーで、小島いわく「仕事人間」。受け子(被害者から現金やキャッシュカードを受け取る役割)の持ち逃げを防ぐために拷問部隊を立ち上げ、組織の安定に貢献して出世街道を駆け上る。

 さらに、「月収200万円が最低ライン」「やるからには組織でナンバーワンのかけ子(電話をかけて相手を騙す役割)になる」と目標を掲げ、3年半で6億円を詐取したとうそぶく「伝説のかけ子」山田李沙。同じくかけ子で、全国の大学生のなかから日本一の新入生を決める「フレッシュキャンパスコンテスト」のファイナリスト・熊井ひとみ、フィリピンの捜査機関に影響力を持つ「女フィクサー」など、マンガやドラマかのような登場人物が揃う。

 栗田の取材によって、本書にはリーダーの渡邉と幹部の今村、藤田、小島、かけ子の山田が裏稼業に手を染めるようになった過程も描かれている。とりわけ、渡邉と幹部3人がどこでどういう接点を持ち、行動を共にするようになったのかは興味深い。

フィリピンでの狂乱の日々

 これだけの個性派が集う犯罪集団の生活が、安穏としているはずがない。渡邉を筆頭とする4人の幹部がフィリピンに集ったのが2018年12月、それから全員が逮捕される2023年2月までの4年数カ月は狂乱の日々だ。

 本書に収録されているその一部を紹介しよう。多い時にはひと月に4億円にのぼったという犯罪収益。収益の30~40%が懐に入る元締めの渡邉や、インセンティブを得ていた幹部たちは、懐に入る大金を湯水のように使う放蕩生活に耽った。

 月収2000万円に達する幹部たちは、家賃100万円、200万円を超えるマンションや一軒家で暮らし、数千万円する車を何台も所有して、飽きたら乗り換えた。幹部たちが旅行する際にはプライベートビーチやクルーザーを貸し切り、現地の芸能人やモデルを呼び集めて、豪勢なパーティーを開いた。

「我が世の春を謳歌するような生活」はしかし、たびたびピンチを迎える。最初の危機は2019年10月、同じくフィリピンで活動する日本人の犯罪グループ「JPドラゴン」との抗争。現地警察と組んだJPドラゴンの攻勢によって壊滅的な被害を受けた渡邉は、反撃を期してひとりのメンバーを潜入させる。抜擢されたのは、かけ子として大きな成果を挙げていた山田李沙。「女スパイ」の緊迫感あふれる諜報活動は、本書の見どころのひとつだ。

 敵はJPドラゴンだけではなかった。藤田は2021年2月、渡邉と小島は同年4月、現地警察に相次いで逮捕される。裏でその絵を描いたのは、意外な人物たちだった。

撮影:川内イオ
撮影:川内イオ

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川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など著書7冊。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。

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