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隠蔽された真相を暴く! 国際社会を揺るがした“あの事件”に挑むネット探偵たち

国内外のさまざまな人、モノ、場所を取材してきたライターの川内イオ氏。
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第7回は、エリオット・ヒギンズ著:安原和見訳『ベリングキャット デジタルハンター、国家の嘘を暴く』を取り上げます。

「パソコンが趣味の会社員」がひとりで始めた調査

 世界的に活躍する、凄腕の調査報道ユニットがある。その名も「ベリングキャット」。誰でも手に入れることができるオープンソースの情報をかき集め、つなぎ合わせて、権力によって隠された真実を世に解き放つことを目的とした、多国籍のメンバーからなるグループだ。

 どれぐらいの腕前か? 例えば今年2月28日、アメリカと戦争が始まったイランで女子小学校が爆破された。トランプ大統領が「イランの仕業」と主張したこの事件で、ベリングキャットは爆撃の映像を解析し、着弾した地理的位置が学校付近ということと、使用された爆弾がトマホーク巡航ミサイルと特定(イランはトマホークを持っていない)。世界最大の通信社のひとつAP通信は、その分析を信憑性の高い情報として世界に配信している。

 昨年には、恐るべき事実が明らかになった。ロシア政府のためにスパイ行為をしていたブルガリア人グループがイギリスで逮捕され、有罪判決が下された。その捜査で、ロシアによる数々の犯罪行為を追及(詳しくは後述)してきたベリングキャットのリーダー格の人物に対する拉致や殺害が計画されていたことが判明したのだ。

 今回紹介する『ベリングキャット デジタルハンター、国家の嘘を暴く』の著者は、ベリングキャットの創設者、エリオット・ヒギンズ。パソコンが趣味の会社員だった彼が、2011年に起きた「アラブの春」の報道を見て「もっと知りたい」と感じたのを機に、「ほかの人の役に立ちそうな豆情報」を掘り起こすところから、本書は始まる。

 エリオットは自分の発見を記録しておくために、2012年からブログを始める。空き時間に発信していたこの個人的な活動の転機となったのは、シリア内戦だ。

 2012年7月、シリアの活動家がX(当時はツイッター)に投稿した「このみょうな爆弾、なんなのかわかる人いる?」という動画を見て興味を引かれた著者はひたすら検索。多くの国で違法とされている悪名高い武器クラスター爆弾と特定する。

 その情報をメディアや政治家、国際NGOなどに送ったところ、『ニューヨーク・タイムズ』の記者や世界最大級の国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のレポートに取り上げられただけでなく、世界的に名を知られた一流誌『フォーリン・ポリシー』から原稿を依頼され、NPR (米国公共ラジオ放送)に出演するなど、一躍脚光を浴びる。
 
 彼の活動を手助けする専門家や同好の士も現れ、翌年にはシリア政府軍が化学兵器を使用したという証拠を発見。さらに注目を集めるなか、失業していた無職の男は「かつてなかったオープンソース捜査、最先端の技術を共有し、具体的な手法の手ほどきもおこなう場」を立ち上げるため、クラウドファンディングを行う。

 そうして誕生したのが、「特定し、検証し、拡散する」をモットーに掲げる調査コミュニティ「ベリングキャット」である。権力者たちによる悪行を、ネット探偵が集まって追及する。まさに「猫の首に鈴をつける」だ。

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マレーシア航空17便墜落事件の真相を究明

 2014年7月、エリオットがひとりで発足させたベリングキャットは、協力者とともにその後も見事な成果を挙げる。

 特徴的なのはその調査手法だ。例えば、ベリングキャット結成の同月に起きた、マレーシア航空17便の墜落事件。オランダのアムステルダムを離陸したこの飛行機がウクライナ上空で何者かに撃墜され、乗客・乗員298名全員が死亡したこの事件では、グーグル・マップとグーグル・アースを使って誰でも手に入る動画や画像を解析し、場所を特定する「ジオロケーション法」と、市民や関係者が事件の前後にSNSに投稿した膨大な情報を掛け合わせた調査が行われた。

 この事件でも、ベリングキャットのボランティアメンバーと市井のネット探偵たちが一致団結し、情報を漁る。ロシアの軍人がSNSに投稿した内容などをもとに、ロシア軍がウクライナに密かに持ち込んだミサイル発射機がウクライナの親ロシア分離独立派に提供されたことと、そのルートを特定(ロシアの軍人はSNSが大好きで、作戦中でも投稿がやめられないらしい)。さらに証拠を集め、事件当日の天候や衛星写真、ユーチューブにアップされた音声ファイルからミサイル発射場所も判明する。

 ベリングキャットは2016年2月、これらの証拠からウクライナの分離独立派が戦闘機と間違えてマレーシア航空17便を撃墜したというレポートを発表した。

 その7カ月後、墜落事件を正式に捜査する国際的な合同調査団が調査内容を公表。この時、創設者のエリオットは自分たちの能力を確信する。調査内容の重要なポイントはすべて、予算も人員も足元にも及ばないベリングキャットが先に突き止めたものだったのだ。

 ベリングキャットが証拠を積み上げていく過程はとてもユニークかつスリリングで、「こんな方法があったのか!」と驚嘆の連続。IT技術を駆使しているわけじゃないから、ITにまったく詳しくなくても問題なく楽しめる。

撮影:川内イオ
撮影:川内イオ

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新刊紹介

川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など著書7冊。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。

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