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フィンランドでは、子を持つ4人に1人がひとり親世帯。誰も「あなたにはお父さんがいないの?」とは聞いてこない(第8回 後編)

フィンランドの首都・ヘルシンキにある「ヘルシンキ労働者学校」。
100年の歴史をもつこの場所で、元新聞記者の堀内京子さんはフィンランド語の教室に通いはじめました。
そこで出会ったのは、いろいろな国からそれぞれの理由で、この街へ来ることになったクラスメイトたち。
生まれ育った国を出る決断の背景には、どのような物語があるのでしょうか。
「ほぼ全員が(フィンランドの)外国人」という教室で交差した、ひとりひとりのライフヒストリーを紹介するルポ連載です。
前回に続き、教室で出会ったナイジェリア人シングルマザーのエロホに話を聞きます。

第8回「家のない子に学校を建てたい」と言ったエロホ 後編

 エロホと約2年ぶりに待ち合わせをしたのは、学校の近く、カッリオ地区にある人気の食堂だった。彼女はフィンランド語の2年間のコースをほぼ終えて、いまはヘルシンキ市内の三ツ星ホテルのキッチンでインターンシップをしているところだ。
 一番大変な頃のスケジュールを聞くと、それはそれは忙しそうだった。朝6時半に家を出て学校に行く。午後2時に学校が終わるとそのまま午後4時からハンバーガー店に出勤して、11時過ぎまで働く。最終バスに間に合わなければ1時間ほど歩いて自宅に戻り、そこから家事や宿題をして3時間ほど眠り、娘の一日の食事の準備をしてからまた学校へ行く。そんな生活を2年続けたという。
 フィンランドに住んでいる人たちは全員が、毎日午後5時に仕事が終わって帰宅しているイメージがあったのだが、実際には親が2つの仕事をかけもちして、夜のシフトの仕事に入っていることもあった。
 家にいられない分、エロホは娘にはいつも、手作りの食事をたくさん作りおき、お菓子も飲み物もそろえていた。せめていつでもおいしいものが食べられるようにすることが、彼女の愛情表現だった。11歳でナイジェリアからフィンランドに来た娘はひとりでそれを食べ、眠って、学校に行った。小学校では、最初の1年間、娘は外国人の子ども向けのクラスでフィンランド語の基礎を学ぶことができ、友だちもできた。そして、次の年からは普通のフィンランド人のクラスにまじって勉強を続けることができた。言葉のハンディはあったが、今は高校に進学して友だちと楽しく勉強しているという。外国に住み始めて、一番難しい時期を乗り越えることができたといえるだろう。数学が得意だという娘の話をするときのエロホには安心感があふれ、うれしそうだ。
「同級生と一緒にいるのを見たら、フィンランド人も中国からの友だちも、みんなで一緒にフィンランド語を話していたので驚き、安心しました」

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 最初は、ナイジェリアにいたときのように学校に送り迎えをしていたが、先生から「来なくていいんですよ、一人で登下校できますよ」と言われて、フィンランドではそうしなくていいのだと気がついた。自宅から学校までは2キロ以上離れていたので、バスに乗るためのチケット代も支給された。そんなシステムが、故郷にもあればいいのにと思った。働いて収入もあるが、約2万円の家賃補助ももらえている。
「ナイジェリアでは、いい学校に行かせるためにはお金を出す必要があった。それに比べると学校の授業料が無償なのも助かります。私が彼女の学校を見に行ったとき、施設は整っていてトイレも清潔で、このためなら税金を払うのが惜しくないと思えました。今、娘は趣味でホッケーもやっている。娘には自信がついて、自分の意思を示すことをおそれていない。彼女は自分がしたくないことをしなくてもいいし、どう生きるかを自分で決めることができる」
「ここでは、誰も『あなたにはお父さんがいないの?』と聞いてこないから、娘は学校で泣く必要がない。ここでは誰も、あなたが素敵な靴やカバンを持っているかどうかも聞いてこない。娘のクラスメイトたちは誰も人の持ち物を気にしたり、ブランド品を持って自慢するようなマテリアリストじゃないから、彼女はナイジェリアのいい学校のクラスメイトたちのようには、そんなことを気にしなくてもよくなった」

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堀内京子

ほりうち・きょうこ
ライター。1997年から2023年まで新聞記者。退職し、現在は二人の子どもとヘルシンキに滞在。著書『PTAモヤモヤの正体』(筑摩選書)、共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社) 『ルポ税金地獄』(文春新書)、朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班として『ルポ若者流出』(朝日新聞出版)がある。

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