よみタイ

BTS着用ブランドに、パリコレブランド。まだ知らない韓国ファッションの潮流【韓国トレンドの裏事情vol.4 後編】

記事が続きます

日本のクラフツマンシップ、老舗ブランドへの憧れも

一方で、韓国では、日本のファッションブランドにも大きな注目が集まっています。
たとえば、NewJeansが私服として着用したことで、「A BATHING APE(BAPE)」は若い世代を中心に人気をさらに広げました。2025年にはソウルにBAPE STORE®︎ THE HYUNDAI SEOUL、2026年3月にはBAPE STORE®︎ DOSANがオープンするなど、韓国での展開を強化しています。BAPEと同じくNIGO®︎が手がける「HUMAN MADE」も2024年に聖水に韓国初の旗艦店を、2026年6月年にはソウルのロッテワールドモールにも新たな店舗をオープンしています。

そんななか、特に人気を集めているのが老舗アウトドアブランド、「montbell」です。韓国にもライセンス商品はあるのですが、若い人の間では「ライセンスはダサい。日本のオリジナル商品を買いたい」という感覚が強く、日本に行ってmontbellでまとめ買いする人も増えています。
愛される理由としては、やはりブランドの歴史が大きいでしょう。欧米や日本と比べると、韓国には歴史の長いブランドがまだ多くないため、montbellのように何十年も続いているブランドに対する憧れがあるのだと思います。
デニムなら「45rpm」をはじめ、岡山県倉敷市発の「KAPITAL」や大阪の「FULLCOUNT」といった老舗ジャパンデニムが人気です。韓国にも長くジーンズを作っているメーカーは存在しますが、これほどレベルの高いブランドはまだありません。こうした分野は世界的に見ても日本が強みを持つ領域の一つであり、丁寧なクラフトマンシップに魅力を感じる人が増えているのでしょう。ファッションウェアにとどまらず、小物にも「PORTER」、「金子眼鏡」といった日本の老舗ブランドを取り入れる傾向が強まっています。

ラグジュアリー市場への挑戦

もう一つ、最近の大きな変化は、韓国のファッションブランドがラグジュアリー市場に挑戦し始めていることです。その代表的なブランドが前回バッグの記事でも触れた「TIME」(タイム)。
韓国の現代百貨店グループ傘下の大手ファッション企業「HANDSOME」(ハンサム)が展開する高級婦人服ブランドです。洋服のスタイルは日本のブランドに例えると、TheoryやDRAWERのような雰囲気でしょうか。

このTIMEが創業30年超にして2024年に初めて秋冬(F/W)パリファッションウィークに参加し、パリの老舗デパートであるラ・サマリテーヌでも取り扱いが開始するなど、ラグジュアリーブランドとしての展開を進めています。これまで海外に進出する韓国ファッションは、比較的トレンディで手に取りやすい価格帯のブランドが中心でしたが、ラグジュアリーの分野にも挑戦していく流れが強まっています。

HANDSOMEにはTIMEより先に生まれた「SYSTEM」(システム)というやや若者向けのブランドがあり、2019年以降パリファッションウィークでコレクションを発表し、伊勢丹新宿店に期間限定ショップをオープンするなど、海外展開を進めています。SYSTEMの広告はイギリスの有名ファッションフォトグラファー、デヴィッド・シムズが撮影し、『VOGUE PARIS』の編集長だったエマニュエル・アルトがスタイリングを手がけるなど、海外の著名クリエイターを起用しています。TIMEも2022年にカイア・ガーバーがコレクションのモデルを務めたことがあるため、今後もこのような展開をしていくのではないかと見ています。

韓国のファッションブランドは2000年代以降、海外進出を模索してきましたが、K-カルチャーの浸透に後押しされて、近年その動きが本格化していると言えるでしょう。

ファッション業界にも学歴重視の影響が

韓国社会は学歴重視の傾向が強いことで知られていますが、ファッションデザイン業界にも錚々たる経歴を持つエリートがそろっています。
「ファッションを学ぶなら欧米に留学しなければ」という意識が高く、アメリカのFIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)やパーソンズ美術大学は序の口で、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートやセントラル・セント・マーチンズ、アントワープ王立芸術アカデミーなどなど、世界的な有名校出身のデザイナーが数多く存在します。留学をしないとしても、国立最高峰のソウル大学や私立の名門校・延世大学をはじめ、韓国の4年制大学にはたいていファッション系の学科があるため、大学院まで進学して博士号を取得する人も少なくありません。

このように驚くほど高学歴な人材が多い反面、クリエイティビティはあまり育っていないという印象もあります。頭ひとつ抜けた、キラキラ輝くデザイナーがまだ韓国には少ない。私の友人にもニューヨーク大学(NYU)やパーソンズ美術大学でアートを教えている人がいますが、「“ピンクは女性、ブルーは男性”というような固定観念が根強い」といった話をよく聞きます。特に、韓国の男性には兵役の義務があるので、軍隊でステレオタイプな“男らしさ”のイメージが植え付けられることもあるでしょう。私にここまで言う資格はないかもしれませんが、ファッション界ではやはりクリエイティビティが重要なので、その点は今後さらに磨かれていく余地があるのではないかなと思います。

ただ、第2回でお話ししたGENTLE MONSTERなどは創業者がファッション畑出身ではありません。そういう人材のほうが、逆にファッション界のルールに縛られることなく自由にクリエイティビティを発揮できているというケースも増えているような気がします。

韓国のファッションは、今まさに大きな転換点にあるのかもしれません。学歴や留学経験に裏打ちされた実力に、どれだけ自由な発想や独自の感性が加わっていくのか。その掛け合わせによって、これまでにない新しい魅力を持ったブランドが生まれてくる可能性は十分にあるでしょう。K-POPやK-Beautyに続き、K-Fashionはどこまで世界を広げていくのか。これからの変化を見ていくのが楽しみな分野です

次回は10月16日公開予定です

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

関連記事

ジョエル・キンベック(JOEL KIMBECK)

 英ゴールドスミス・カレッジの大学院でメディアを専攻。広告企画会社勤務を経て2010年に独立し、ブランディングエージェンシー「STUDIO HANSOME」を設立する。ニューヨークを拠点に、ソウル、東京、パリ、ミラノを行き来してファッション、ビューティー、ライフスタイルのブランディングを手がけるクリエイティブ・ディレクター。
 LVMHグループ傘下のブランドをはじめ、モスキーノ、VERA WANG、メゾンキツネ、ラフシモンズ、ロベルトカヴァリ、TUMI、カルバン・クラインなどのファッションブランド、ロレアルグループ傘下やアモーレパシフィック傘下のビューティーブランドにおいて、ブランディング全般を担ってきた。 
 韓国の『W』『VOGUE』『GQ』、『月刊デザイン』『東亜日報』『週刊東亜』など多くの媒体でコラムを執筆中。著書に『ファッションミューズ』(2016年)、『FRESHNESS CODE』(2021年)がある。韓国人デザイナーの海外進出を支援する韓国政府のプロジェクト「コンセプトコリア」のコンサルタントとしても活躍。
@studiohandsome
https://www.studiohandsome.com/


[週間ランキング] 今読まれているホットな記事