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軍隊コスメにSNSマーケ。韓国美容ビジネスの最前線【韓国トレンドの裏事情vol.3 後編】

ニューヨークを拠点に、15年以上にもわたってファッション、ビューティーブランドのブランディングや広告キャンペーンのディレクションに携ってきたジョエル・キンベック氏。
日本人の母親とアメリカ生まれの韓国人の父親を持ち、日本、アメリカ、韓国を行き来しながら各国の文化に触れて育ったバックボーンと、仕事での経験をベースに、誰もが知っている韓国トレンドを深堀り解説します。

前編に続き、世界的なビジネスに成長している韓国美容についてさらに深堀します。

構成/藤田麗子

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軍の売店でもヒットコスメが生まれる! 韓国男性の美意識もカギ

これまでに話題になった韓国コスメでとくに記憶に残っているのは、TIRTIRのクッションファンデーション「MASK FIT CUSHION」です。これまで韓国のファンデーションは、21号や23号などの明るい色が中心で、TIRTIRのクッションファンデーションも当初は3色展開でした。

ところが欧米進出を進める中で、各国のインフルエンサーから「自分に合う色が見つからない」という声が多く寄せられます。そこでTIRTIRは最終的になんと40色までカラーバリエーションを増やしたのです。これがTikTokを中心に話題となり、アメリカでもブランドの知名度が一気に高まりました。

TIRTIRはもともとスキンケアブランドとして知られ、これまでにEXOのベクヒョンや俳優ヒョンビンがモデルを務めたことがあります。韓国では昔から男性芸能人がメイクブランドのモデルになることが多く、女性向けブランドであっても自然に受け入れられてきました。2025年11月からはBTSのVがTIRTIRのモデルに起用されました。K-POPスターの影響力は大きく、海外のファン層にも一気に情報が拡散するきっかけになります。

こうしたマーケティングが成立する背景には、韓国社会に根付いた男性の美容意識があります。韓国ではスポーツジムや銭湯などで、若い男性がスキンケアポーチを持ち歩いている光景もめずらしくありません。

また、兵役制度のある韓国では、軍の売店でも化粧品が多く販売されており、「軍で売り切れ続出のコスメ」「休暇の軍人がお母さんや彼女に買って帰る定番コスメ」として話題になることもあります。これも一つのマーケティング手法といえるでしょう。
 
この男性美容文化はグローバルブランドにも影響を与えています。2018年、CHANELが初の男性向けメイクアップライン「BOY DE CHANEL」を発表した際、フランス本国に先駆けて世界で最初に発売されたのが韓国でした。このときモデルに起用されたのは、ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』で人気を集めた俳優イ・ドンウクです。

K-POPや韓国ドラマの世界的な人気と、男性も美容を楽しむという韓国社会の文化。この二つが重なり合うことで、男性モデルを起用したコスメマーケティングが自然に成立し、K-Beautyの広がりを後押ししているといえるでしょう。

仁川国際空港ターミナルの化粧品免税店。 iStock.com/MDV Edwards
仁川国際空港ターミナルの化粧品免税店。 iStock.com/MDV Edwards

欧米ブランドのマーケティングにも変化が

K-Beautyの勢いによって、欧米ブランドのマーケティングにも大きな影響が出ています。10年ほど前に起きた動きは、欧米の大手企業による韓国コスメブランドの買収でした。たとえばエスティローダーはDr.Jart+、ユニリーバはAHC、ロレアルは3CEブランドを展開するStylenandaなど、当時注目されていた韓国ブランドとのM&Aが活発化したのです。

その背景には、韓国ブランドが中国市場で爆発的な売り上げを上げていたことがあります。
しかし買収後、創業者が数年で経営の前線を離れ、ブランドが以前ほどの勢いを保てなくなるケースも少なくありませんでした。流通や資本は強化されても、ブランドの個性が弱まり、存在感が薄れてしまったのです。

そこで欧米企業が理解したのは、韓国のブランドを買収するのではなく、マーケティングやアプローチを学ぶ必要があるということでした。つまり、K-Beauty的な売り方を取り入れる方向へと変化していったのです。

たとえばエスティローダーグループでは、以前はトップモデルを中心に広告を展開する方法が主流でした。人種の多様性を示すため複数のモデルを起用する場合でも、人数はそれほど多くありませんでした。ですが、2020年前後からはフォロワー数の多いインフルエンサーを多数起用し、InstagramなどのSNSでバイラルに広げていく方法に大きくシフトしています。

アルマーニビューティーも同様です。かつては世界的に影響力のあるパット・マクグラスやリンダ・カンテロのようなカリスマ・メイクアップアーティストを中心にブランドイメージを作る時代もありました。しかし近年は、若い世代のメイクアップアーティストやインフルエンサーを複数起用し、SNSを通じて広く発信していく形へと変わってきました。
コロナ禍前からこうした動きが見られ、当時としてはかなりめずらしい変化だったと思います。

インフルエンサーの使い方も変わりました。以前はTier1、つまりトップインフルエンサーだけが重視されていましたが、現在はTier2やTier3、もっと小さなアカウントまで起用するようになっています。どこで誰の目に留まるかわからない時代だからです。かつてはプライドもあり、こうした手法を採用しなかった欧米ブランドも大きく変化しています。

今の若い世代は、「デパコスだから」「高級ブランドだから」といった理由よりも、SNSでどれだけそのブランドを見かけるかを重視します。何度も目にすることで、「このブランドは信頼できそう」「使ってみたい」と感じるようになるのです。

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ジョエル・キンベック(JOEL KIMBECK)

 英ゴールドスミス・カレッジの大学院でメディアを専攻。広告企画会社勤務を経て2010年に独立し、ブランディングエージェンシー「STUDIO HANSOME」を設立する。ニューヨークを拠点に、ソウル、東京、パリ、ミラノを行き来してファッション、ビューティー、ライフスタイルのブランディングを手がけるクリエイティブ・ディレクター。
 LVMHグループ傘下のブランドをはじめ、モスキーノ、VERA WANG、メゾンキツネ、ラフシモンズ、ロベルトカヴァリ、TUMI、カルバン・クラインなどのファッションブランド、ロレアルグループ傘下やアモーレパシフィック傘下のビューティーブランドにおいて、ブランディング全般を担ってきた。 
 韓国の『W』『VOGUE』『GQ』、『月刊デザイン』『東亜日報』『週刊東亜』など多くの媒体でコラムを執筆中。著書に『ファッションミューズ』(2016年)、『FRESHNESS CODE』(2021年)がある。韓国人デザイナーの海外進出を支援する韓国政府のプロジェクト「コンセプトコリア」のコンサルタントとしても活躍。
@studiohandsome
https://www.studiohandsome.com/


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