よみタイ

K-POPはなぜ世界へ拡散され続けているのか【韓国トレンドの裏事情vol.1 後編】

ニューヨークを拠点に、15年以上にもわたってファッション、ビューティーブランドのブランディングや広告キャンペーンのディレクションに携ってきたジョエル・キンベック氏。
日本人の母親とアメリカ生まれの韓国人の父親を持ち、日本、アメリカ、韓国を行き来しながら各国の文化に触れて育ったバックボーンと、仕事での経験をベースに、誰もが知っている韓国トレンドを深堀り解説します。

前編はK-POPアイドルとラグジュアリーブランドの関係性について。後編ではアイドルがここまでの影響力を持つに至った背景、そしてこれからのアイドルビジネスについて解説。

構成/藤田麗子

記事が続きます

YGに並ぶ三大芸能事務所SM、JYPのファッション傾向は

 大手事務所の中でも、SMエンターテインメントはYGとはまた方向性が違います。ご存知の方も多いと思いますが、SMは日本のアイドルビジネスをベンチマーキングしてスタートしています。BoAや東方神起も日本ではエイベックスからデビューし、コンセプトに合わせた衣装を着て活動していました。オリジナルのものが多く、ステージの世界観にあわせてスタイリストやデザイナーによって制作される「衣装」は、ファッションのトレンドとはムードが異なることも多かった。こういったイメージもありハイブランドとのタイアップのスタートが遅くなった可能性があります。ショーに招待されたりすることはありましたが、ファッション面においてYG所属のアイドルほど影響力の大きい存在はほとんどいなかったと思います。
 以前のSMは「コンセプトに合わせて衣装を作らないなんて、ステージやミュージックビデオへのリスペクトが足りない」と考えていたのではないでしょうか。
 とはいえ、今はトレンドが変わりましたし、EXOやNCTのメンバーがGUCCIやPRADAのアンバサダーに起用されています。SMもこうした活動がいかに重要かわかっているので、今後はいっそう力を入れていくと思います。

 JYPエンターテインメントは、YGほどではありませんが、SMに比べればタイアップが多いほうです。今をときめくStray KidsのメンバーがLOUIS VUITTONやFENDI、BURBERRY、GUCCIなどの世界的ブランドのアンバサダーを務めていますから。
 しかし、昔からハイブランドを重視していたわけではなかったと思います。韓国ではやはり『VOGUE』『W』『marie claire』などのカバーになった人がファッションアイコンとみなされる傾向が強いのですが、選ばれる率は、JYPよりはYGのアーティストのほうが高かったですね。

K-POPはなぜ世界に拡散されたのか

 今のようにK-POPが世界的に人気を集めた理由として、僕が考える最大のキーワードは「開放性」です。昔は、外国の人が韓国や日本の文化に触れるには言語を学ぶ必要がありましたが、AI時代に入ったことで簡単に翻訳ができるようになり、興味のあるコンテンツをネットですぐに見られるようになりました。
 もしYouTubeがない時代だったら、PSYの「江南スタイル」があれほど爆発的にヒットすることはなかったはずです。BTSの世界的な人気もまた、無名時代から自分たちが暮らす宿舎からライブをしてプライベートを見せるといったスタイルが今の若い世代に響いたのでしょう。
 今の若者たちにとっては、リアルの友達と同じぐらいネットの中の友達も重要です。食事中や寝る前にYouTubeなどを流すことが多いので、その感覚でいうと、やはり韓国はコンテンツが豊富です。その点、日本のアイドルは事務所の管理が厳しくて情報が限られていたので、ネット上で見られるコンテンツが少なかった。これが時代の流れ的にはいちばん大きなポイントではないかと思います。

 また、僕のまわりにはSMのアイドルが好きだという友人が多かったのですが、韓国には「大砲」と呼ばれる巨大なレンズのカメラを持ってコンサートに参加するファンがいました。日本では絶対に不可能ですよね。韓国の事務所も表向きは禁止していたのですが、かつてはある程度黙認していたことは否めません。非公式ファンサイトが複数存在していて、写真を見たファンたちは「この人はモノクロがうまい」「指先のクローズアップはこの人が得意」と盛り上がります。マスターと呼ばれるサイトの運営者は、人気の高い写真を使って非公式グッズを作って販売さえしていました。

 かつてはテレビ局の存在が重要でしたが、今は個人メディアの時代です。SNSや配信の時代が盛りあがっていく、その流れに乗ったことが今の世界的な人気につながっているのでしょう。韓国アイドルのライブでは、スマホでなら特に制限なく撮影ができたり、撮影OKタイムが設けられていることも多く、事務所もファン発信のコンテンツの強みをよく理解しているのだと思います。

ギャラクシーコーポレーションの広告塔になったG-DRAGON

2026年4月、コーチェラでのG-DRAGON率いるBIGBANGのパフォーマンス。Photo by Frazer Harrison/Getty Images for Coachella
2026年4月、コーチェラでのG-DRAGON率いるBIGBANGのパフォーマンス。Photo by Frazer Harrison/Getty Images for Coachella

 G-DRAGONの現在の所属事務所であるエンタメテック企業、ギャラクシーコーポレーションが黒字になったということが、少し前に様々な記事に取り上げられました。ギャラクシーコーポレーションのいちばんの目標はIPO(新規上場株式)だと思います。上場のためには資料や業績が必要ですから、黒字に転換したということのアピールと「まだ誰も歩いたことのない道を歩く」というビジョンを見せることに注力しているのでしょう。
 この点において、すでに数多くの実績を持つG-DRAGONの存在が大きな役割を果たしています。2025年に行われた単独のワールドツアーも成功に終わりましたし、10月31日には韓国で行われたAPECサミットの晩餐会で公演もしました。 今年の4月にはBIGBANGとしてコーチェラに出演し、大きな話題となりました。韓国では特にコーチェラに出られるのと出られないのとでは、アーティストとしての格が大きく変わります。そして、8月からは20周年のワールドツアーがはじまります。こういったG-DRAGONの活躍も追い風となって、ギャラクシーコーポレーションの上場の噂は常にささやかれているのです。

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

関連記事

ジョエル・キンベック(JOEL KIMBECK)

 英ゴールドスミス・カレッジの大学院でメディアを専攻。広告企画会社勤務を経て2010年に独立し、ブランディングエージェンシー「STUDIO HANSOME」を設立する。ニューヨークを拠点に、ソウル、東京、パリ、ミラノを行き来してファッション、ビューティー、ライフスタイルのブランディングを手がけるクリエイティブ・ディレクター。
 LVMHグループ傘下のブランドをはじめ、モスキーノ、VERA WANG、メゾンキツネ、ラフシモンズ、ロベルトカヴァリ、TUMI、カルバン・クラインなどのファッションブランド、ロレアルグループ傘下やアモーレパシフィック傘下のビューティーブランドにおいて、ブランディング全般を担ってきた。 
 韓国の『W』『VOGUE』『GQ』、『月刊デザイン』『東亜日報』『週刊東亜』など多くの媒体でコラムを執筆中。著書に『ファッションミューズ』(2016年)、『FRESHNESS CODE』(2021年)がある。韓国人デザイナーの海外進出を支援する韓国政府のプロジェクト「コンセプトコリア」のコンサルタントとしても活躍。
@studiohandsome
https://www.studiohandsome.com/


週間ランキング 今読まれているホットな記事