よみタイ

シチューは、主菜なのか、汁物なのか、それが問題だ

あらゆる選択肢のなかから、食の楽しみを自由に得られるようになった現代日本で、
本当の「おいしさ」はどこにあるのか——?
『異国の味』『東西の味』に続く、稲田俊輔による「味3部作」連載、第3弾!

「煮込み料理」編3回目は、給食でおなじみのメニュー「シチュー」について。

クリームシチュー・ビーフシチュー・ハヤシライス  〜シチューライスはアリかナシか〜

 前々回は、日本の家庭料理の象徴とも言える、肉じゃがについてお話ししました。前回は「玉ねぎ・にんじん・じゃがいも・肉」を炒めるところからルート分岐する料理としては肉じゃがを遥かに凌ぐ人気のある、カレーライスのお話でした。せっかくなので今回はその勢いのまま、それ以外のルート分岐料理について、まとめて語っていきたいと思います。
 子ども時代の我が家においては、ルート分岐からの最多登場はカレーライスでした。2位は肉じゃがで、それに肉薄するのがクリームシチューだったと思います。
 家庭料理としてのクリームシチューを語る時に、絶対に避けては通れないトピックがあります。それは「シチューライスはアリかナシか」という、極めてどうでもいいようでいて、その実、重要な議論です。選択肢としては三つです。

①クリームシチューに合わせるべき主食はパンである
②クリームシチューに合わせるべき主食は米であり、シチューをかけてもいい
③クリームシチューに合わせるべき主食は米であるが、シチューをかけてはならない

 そんなもん、各家庭で各自が好きなようにすればいいではないか、という話なのですが、あえてそこを掘り下げることで、本質的な何かが見えてくるはずです。それではやっていきましょう。
 まず①の意見は、ある意味盤石です。誰も文句は言えないからです。クリームシチューは、戦後間も無く学校給食として、イギリス料理をヒントに生まれたという説が有力です。栄養的には優れているもののそのままではあまりにもマズかった当時の脱脂粉乳を、少しでもおいしく食べさせるための工夫です。つまりそもそもパンと一緒に提供される前提の料理だったわけです。
しかしこれは、家庭料理としては大きな欠点でもあります。なぜなら、日本人の夕食における主食は米でなければならないというのが、暗黙の了解だからです。皆さんのお宅はどうでしょうか。ちなみに我が家は、そもそもあまり米にこだわりません。主食がパンや麺になることもしばしばで、だからクリームシチューの時は基本的にパンです。ただしそういう家庭はおそらく少数派でしょう。
 次に②は、極めて合理的な考え方です。カレーはご飯にかけるのだからシチューでそれをやってはいけない道理もありません。人それぞれ好みの違いはあるにせよ、少なくとも一般的な固形ルーで作るクリームシチューは、結構甘じょっぱい味、つまりご飯によく合う味に仕上がるはずです。
 しかし、味どうこうに関係なく、日本食においては「汁かけ飯は下品」という大原則があります。カレーは数少ない例外と見做されています。クリームシチューを同様の例外に含めない場合は、必然的に③の選択肢しか残りません。そしておそらくこれが最大派閥です。

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 さてこの場合、ルートが更に分岐します。
・③-A ご飯のおかずはあくまでクリームシチューが主である(豚汁定食スタイル)
・③-B シチューとは別にご飯のおかずを用意する(一汁一菜スタイル)
 
 後者は更に分岐します。
・③-B(ア) おかずは主菜的なものである(ハンバーグやから揚げなど)
・③-B(イ) おかずはあくまで「ご飯の友」である(明太子やふりかけなど)
・③-B(ウ) その場合はご飯に味付けがなされている(チキンライスや炊き込みご飯など)

 さて皆さんのご家庭は、どこに分類されるでしょうか。そして具体的にはどういう献立になるのでしょう。クリームシチューという料理の特異な点として、外食のメニューとして提供されることがほぼ無い、ということがあると思います。なので、クリームシチューそのもののレシピや味にはある程度の標準があるものの、それを含む献立の内容にはお手本というべきものが存在しないんですね。
 だからおそらく、家庭ごとの多様性は凄いことになっているはずです。「ウチはクリームシチューの日は納豆ご飯で、そこにキムチも乗せます」なんていうお家があっても不思議ではありません。僕は叶うことならば、国勢調査のように全国でクリームシチュー調査を行いたいです。たぶん相当面白いはずです。

イラスト:森優
イラスト:森優

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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