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何か文句があるんですか! 私の酒が飲めないっていうんですか! 第7回 働き続ける正月からの解放

嫁の手術を忘れ、執拗に飲酒をすすめる義母

 それにしてもなんだかワイルドな詰め寄り方だった。私からすると、そんなの手術したからに決まってんじゃん! そんなことも忘れたの!? という思いだったのだが、義母は実際に、すべて忘れている様子だった。唖然とした。そのうえ、強い怒りをひっきりなしに私に向けてきた。突然の怒りは認知症の初期症状によくあることと今なら理解しているが、当時の私にその知識はなかった。年を取って頑固になったのかもしれない。機嫌が悪いのかもしれない。義母がそこまで怒りを募らせる理由もはっきりしないまま、私にとってはまさに踏んだり蹴ったりという状況になってしまった。
 機嫌の悪い義母をなんとかなだめつつ、義父が何ヶ月も前から準備していたおせち料理がテーブルに並べられ、家族揃っての食事がはじまった。紅白歌合戦を見つつ酒を飲み、上機嫌になった義母は、今度は私に何度も酒を勧めてきた。その都度、結構です、私、お酒は辞めてますのでと丁寧に断った。そりゃそうでしょう。お酒を飲んでいる場合ではないでしょう。なにせ私、病人ですから。しかし、すべてを忘れている様子の義母は決して諦めない。病気? そんなの噓じゃないですか、あなた、病気なんてしてないわよと言いながら、何度も何度も、私に酒を飲ませようとし、それを私が断るという緊張感溢れるやりとりが延々と続いた。もうこうなってくると意地の張り合いである。
 私が五回ぐらい断ったところで、義母はとうとう激怒した。あなた何か文句があるんですか! 私の酒が飲めないっていうんですか! 嫌なんだったらあたしは帰りますよ! と、大声を出して立ち上がった。びっくりした義父が止めに入る。夫も慌てて止めに入る。しかし怒りを抑えきれない義母は階下まで早足で行き、何やらドン! バン! と殴り、そして荷物をまとめて実際に帰ろうとしていた。車に乗り込み、ブオン、ブオンとエンジンを吹かしていた。慌てた義父が運転席に覆い被さるように体を張って説得していたが、義母の甲高い声はしばらく続いた。私は驚くのを通り越して、すっかり観察モードに入っていた。夫は「何かおかしいな」と言っていたが、おかしいなんてレベルの話ではない。まるで別人である。義母は決してこんな乱れ方をする人ではない。何度も執拗にお酒を勧め、それを私に断られたと激怒するなんて、本来の彼女ではない。加齢か、それとも何か理由があるのか? いくら考えても正しい答えは見つからないように思えた。息子と夫に必死になだめられた義母は車からようやく出て屋内に戻ったが、怒りは階下で夜中まで続いていた。私は静かにパソコンに向かい、義母の様子をメモしはじめた(このメモも数年後には一冊にまとまった)。

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村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『ラストコールの殺人鬼』『射精責任』など。

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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