よみタイ

祝!続々重版!!【村井理子ロングインタビュー前編】「赤川次郎を知り、椎名誠に恋をし、ブッシュを追った」、その半生とカルチャーを振り返る

翻訳家として、ノンフィクションの傑作を数多く訳してきた村井理子さん。近年は、エッセイストとしても、自分を育んだ家族と、自分が作った家族について綴り、多くの読者の共感を得てきました。
並外れた記憶力と内省で家族の深刻な問題を描きながらも、持ち前のユーモアでグイグイ読ませてしまう。来歴と人柄によって紡がれるであろう文章の源泉を探るべく、今の「村井理子ができるまで」を、根掘り葉掘り聞きました。ロングインタビュー、前編です。

取材・構成/安里和哲  撮影/冨永智子(村井理子さん近影)
※近影以外の写真は、村井理子さんの私物です。

ハイカラな喫茶店で育った幼少期

――家族や愛犬などのエッセイで注目されている村井さんは、現在「よみタイ」で連載中の『実母と義母』も好評です。今回は改めて、村井さんご自身の半生を伺いたくて、ロングインタビューをお願いしました。

私、ほんとおしゃべりなので、いくらでも話せますよ(笑)。

――では、幼少期からじっくり振り返りましょう。

子どものときは家では常に一人でした。学校から帰っても基本的に誰もいない。ただ、母が営む喫茶店がすぐ近所にあったんです。だから、ランドセルを置いたらすぐ店へ行き、晩ごはんの時間までお店で過ごし、母と一緒に帰ることが多かったです。お店には、当時まだ珍しかったソフトクリームの機械とか、ファミレスのドリンクバーみたいな機械があって、子どもにはたまらなく楽しい場所でした。

――70年代後半の静岡県焼津にそんな都会的な喫茶店があったんですね。

都会的ではないと思いますけど(笑)。そういえば、うちは犬を連れてくるお客さんも多かったんです。

――ドッグカフェ!

今で言えばそうなりますよね(笑)。小型犬がいっぱいいましたよ。あと、母は自分が油絵も描くから、お店で地元の作家さんの個展を開いたりもしていました。

――とてもにぎやかな場所だったんでしょうね。

うん、昔はすごく楽しそうでしたよ。夜はバー営業をしていたので、町の若い人がいっぱい集まってきて、遅くまで活気があって。うちの母親は、おじいちゃんがキャバレーを経営していて、そこでずっと働いていたので、生涯水商売と関わっていた。ある意味ハイカラな人だったんだと思います。

母が勤める店のカウンター内の父。
母が勤める店のカウンター内の父。

――すごく文化的な暮らしをしていたんですね。

そうなのかなぁ。でもたしかに活字をよく読むようになったのも喫茶店でした。全国紙は全部そろっていて、スポーツ新聞もある。週刊誌もだいたいありました。近所の本屋のおじさんが毎週最新号を納品しに来るんですよ。『FOCUS』とか『FRIDAY』とか必死に読んでました(笑)。

――ずいぶんませた小学生(笑)。

「子どもが読むもんじゃない!」なんて誰も言わなかったですから。女性週刊誌もよく読んでたなぁ。コミック誌も全部揃ってて、少年マンガも少女マンガも青年マンガもたくさん読んでました。近所のおじさんおばさんもみんな何かに読みふけったり、平気で3〜4時間もおしゃべりしたりして、おおらかな時代でしたね。

――雑誌やマンガ以外に夢中になった本はありましたか?

初めて読みきった本は、家にあった赤川次郎さんのものです。4年生くらいだったかな。今思うと、本の内容はあまり理解できてないんですが、読み切った! という達成感がすごかった。それからのめりこんで「三毛猫ホームズ」シリーズはよく買ってもらってましたね。赤川次郎さんは毎月のように本を出すので追いつくのに必死でした。そこからは本の世界に入り込んでしまって、もう抜けられない感じ。世界観にハマって、主人公と同化して、肌身離さず本を持ち歩くような子でした。母は本ならいくらでも買っていいという方針だったので、毎週なにかしら買ってもらいましたね。

――お母さんの喫茶店といい、自宅の本棚といい、本が常に周りにあったんですね。既刊『本を読んだら散歩に行こう』の「はじめに」にも書いていらっしゃいました。

そうですね。当時住んでいたアパート「さくら荘」のお風呂場の正面にはすごく大きい本棚があって、そこに『サザエさん』や『宇宙のひみつ』みたいな学習本シリーズ、それと、母の美術書がいっぱい置いてありました。初版の『サザエさん』は3歳くらいから何度も読んでましたね。飽きたら『宇宙のひみつ』や美術書を眺める。

――絵本は読まなかった?

私、絵本が退屈で仕方がなかったんです。唯一読めたのが『モチモチの木』。そういえば『ぐりとぐら』も好きでしたね。でもそれ以外の絵本はただただ退屈で、全然読まなかった。母が読み聞かせをしてくれた記憶もないですね。母は喫茶店から一旦帰って、夜遅くにまた深夜営業のために出かけていく。だから寝るときは私と兄とふたりきり。でも、うちの母親がたまにしていた昔話は鮮明に覚えてます。母が子どものとき、早起きしてドングリを一生懸命拾っていて、ふと顔を上げたら目の前に足がぶら下がってて、見上げたら、男の人が首を吊っていたっていう(苦笑)。そんな物騒な話が母の鉄板ネタで、何度聞いても兄と一緒に「えぇー!」って驚いてました。

赤ちゃんの頃の村井さんと父。
赤ちゃんの頃の村井さんと父。
兄とともにソフトクリームをほおばる。
兄とともにソフトクリームをほおばる。
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。
新刊エッセイ『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』(CCCメディアハウス)が、12月16日に発売!


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ブログ:https://rikomurai.com/

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