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『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」
数々の文学賞を受賞した中島京子さんの『長いお別れ』は、実父の認知症から着想を得た小説で、映画化もされ話題となりました。村井理子さんの『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』のファンでもあった中島さんは、認知症進行中の義母について書かれた村井さんの『全員悪人』、そして新刊『本を読んだら散歩に行こう』でも共感しつつページをめくったとのこと。認知症への尽きない興味についての対談冒頭から、親子、家族、自身の加齢と老後、読書、料理、自宅のリフォーム……50代の大波小波まみれの日常についての尽きない話題をお楽しみください。 撮影/冨永智子  構成/山本圭子・「よみタイ」編集部

『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」

義母と仲良くなれたきっかけは認知症

中島 『本を読んだら散歩に行こう』を読んで、いろいろと感じることがありました。本文に「四十代と五十代はなぜこうも違うのか!?」と書かれていたように、村井さんよりちょっと年上の私はそれを痛感しているし、義理のお母様の老いの姿にもぐっとくるものがあって。「私も長く生きちゃったな。もしかしたらそろそろ“老人”のカテゴリーに入りつつある?」と思い始めたところだったんです。

村井 私も義母にそう遠くない自分を重ねることがありますが、正直に言って好奇心のほうが強いですね。老いていくとき人間はどのように変わっていくのか。それを間近で見ていると興味が尽きないんです。20年くらい前の私だったら、義母が認知症になったことを悪夢と思うかもしれません。でも、今の私は目の前にいるすごく困った人に手を差し伸べている感じで、義理の親だから世話をしなくてはとか、そういうことはあまり関係ないんです。

中島 「ご多分に漏れず私も義母と折り合いが悪く」と書いていらっしゃいましたね。

村井 私からすればいじめられていました(笑)。でもいろいろな葛藤を経て、今は親友みたいな感じです。認知症が絡むと、かつての敵対した感情が消えてこんなふうに付き合えるようになるなんてと、新鮮な驚きがありますね。

中島 お義母様がいろいろなことを忘れちゃったから、ということですか?

村井 そうですね。義母は今まで培ってきた常識や人間関係を全部忘れて、少女みたいな素のヨウコちゃん(義母のお名前が洋子さん)になっている。明るくて面白いこのヨウコちゃんなら、同じ女性として一対一で付き合えるという感じです。

中島 いいお話ですね。私も実の父の認知症があって『長いお別れ』という小説を書きましたが、介護の中心は元気だった母で、私は相談を受ける感じでした。認知症って、本当に興味が尽きない病気ですよね。ひとりひとり病状が違うし、何を言い出すやらわからない。「面白いと言ってはいけない」という人もいるでしょうが、正直とても面白い。私の場合は父と仲が悪いということはなかったけれど、昔の人だから気難しかったり機嫌が悪くなったりというタイプだったのですが、認知症になって「男なら」「父として」という部分がなくなって、付き合いやすくなりました。子どもにもやさしくなりましたね。しっかりしていたときは、「威厳のあるじいさんであらねばならぬ」という気持ちがあったと思いますが、幼稚園で子どもたちが遊ぶ姿をじーっと見ていたり。動物もすごく好きになって、「お父さん、本当はこんなだったんだ」と思いました。

村井 本来の姿に戻っちゃう感じですよね。ただ、何を言い出すかわからないからハラハラしちゃう。ウチの義母は完全に女子高生になっているので、デイサービスへの送迎をしてくれるお兄さんを「カッコいいのよ!」と言い、私に「なんであの人は私の家を知っているんだと思う?」と聞いてくる(笑)。かなり好きみたいです。

中島 人によって戻る時期が違うようですね。女性の場合は、嫁入り前の状態で止まっちゃう人が多いとか。

中島京子氏。料理好きの中島さんは、村井さんの『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』を愛読していたという。
中島京子氏。料理好きの中島さんは、村井さんの『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』を愛読していたという。
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。
新刊エッセイ『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』(CCCメディアハウス)が、12月16日に発売!


ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

中島京子

なかじま・きょうこ●1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。早稲田国際日本語学校、出版社勤務を経て1996年にインターンシップ・プログラムスで渡米。翌年帰国、フリーライターとなる。2003年『FUTON』で小説家デビュー。2010年『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞。14年『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞受賞。15年『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞・第4回歴史時代作家クラブ作品賞・第28回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞・第5回日本医療小説大賞をそれぞれ受賞、2020年『夢見る帝国図書館』で第30回紫式部文学賞を受賞、2022年『ムーンライト・イン』『やさしい猫』で第72回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、2022年『やさしい猫』で第56回吉川英治文学賞受賞。
著書に、小説『イトウの恋』『平成大家族』『ゴースト』『キッドの運命』『オリーブの実るころ』、エッセイ『ワンダーランドに卒業はない』などがある。

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