2026.7.12
「世界文化遺産」富士山のそこかしこに……。 見てみたい、体験してみたい“穴場”スポット【山の名&珍プレイス 第8回 後編】
本連載では、アウトドア雑誌や山登りの指南本、TV番組や各種イベント出演でもおなじみの山岳ライター・高橋庄太郎が、豊富な山経験をもとに、自分の足でわざわざ見に行く価値がある、こだわりの山の名スポット・珍スポットを紹介していきます。
静岡県と山梨県にまたがる富士山。あれだけ有名な山なのに、山頂を含む東側には、どこまでが静岡県で、どこまでが山梨県なのか判別できない“県境未確定地”があるうえに、山頂の北側にも不思議な“飛び地”があったり、南側にも意外と知られていない大きな火口があったりして……。さすがは日本一の山。前編に続き、見どころたっぷりの名スポットをさらにいくつかご紹介します。
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歴史的な見どころ豊富な「世界文化遺産」、富士を歩く
さて、前編では触れていなかったが、富士山といえば日本が誇る「世界文化遺産」だ。正確には「富士山~信仰の対象と芸術の源泉」という名称で2013年に登録され、その中心となる重要建造物のひとつが富士山本宮浅間大社である。その“本宮”は富士宮市の中心地にあって多くの観光客を集めているが、登山者しか訪れることができない富士山山頂の“奥宮”も当然ながら非常に貴重な存在だ。

奥宮が建っているのは、剣ヶ峰からお鉢を反時計回りに20分ほど進んだ場所。富士宮ルートと御殿場ルートの登山道はちょうどこの地点で富士山山頂部の火口の外輪山に当たる“お鉢”に合流する。富士宮ルートは富士山本宮浅間大社の本宮と奥宮を結ぶルートでもあり、人家のある山麓と富士山山頂をつなぐ重要な接点となっている。富士宮市の繁華街に近い本宮は“山中にある”名スポットではないが、奥宮と併せて見学すると富士山が世界遺産に登録されるだけの価値があることをしっかりと理解できるだろう。



県境未確定地だけではなく、“飛び地”まで抱える富士の山
富士山本宮浅間大社と関係が深いのは、富士山の「県境」未確定地だったが、じつは富士山の北側には「町」の境界に関するユニークな場所がある。それは吉田口登山道と呼ばれている区間の二合目だ。
富士山の登山口のひとつである吉田口では、五合目から十合目である山頂へ向かう区間を吉田ルートと呼び、それとは反対に五合目と一合目を結ぶコースを吉田口登山道と呼び分けている。全域が山梨県の富士吉田町の町内だ。そのなかで、ごく一部の例外が二合目にある冨士御室浅間神社の一帯。現在の神社の社殿は廃屋のように荒れていて内部を見学することはできないが、周囲が神域であることは今も変わらない。そして、その将棋の駒のような形状の神域だけは、富士吉田町ではなく、富士河口湖町の土地となっているのである。

もともとこの二合目は「冨士御室浅間神社(富士小室浅間神社)」の本宮本殿があった場所。だが、富士山の噴火によって炎上したり、風雪にさらされて腐敗が進みやすかったりと、建物を維持するのが困難な位置だった。そこで、1974年に本宮本殿は解体され、現在の富士河口湖町にある里宮の場所に移築された。それを機に、もともとの二合目の冨士御室浅間神社を奥宮とした。しかし、自然環境の厳しさによっていっそう劣化が進んでしまい、いつしか現在の荒れた状態になっている。僕がはじめてこの二合目を通ったときは廃屋化した山小屋だと思い込んで、思わず素通りしそうになったくらいだ。現状ではそこが貴重な場所であるとはまったく思えず、このままでは少々もったいない気がしないでもない。
ともあれ、本宮本殿が移築された冨士御室浅間神社の里宮が富士河口湖町であることから、この奥宮がある二合目付近も里宮と同じ富士河口湖町の一部として扱われている。前編で紹介した「富士山本宮浅間大社の県境」は、本宮と奥宮の所在地が同じというわけではないのに、こちらは統一されているのだ。この区域の広さは東京ドーム約2.1個分の面積である10ha(=100,000㎢)。これだけの面積が富士河口湖のいわゆる飛び地として、富士吉田町のなかにはめ込まれているのであった。もしもこの場所に住む人がいれば、行政などのサービスを受けるのも大変そうだ。


吉田口登山道は吉田ルートほどの勾配差はなく、標高も低いので気象条件も落ち着いている。あえて山頂を目指さず、五合目まで歩くのも悪くはない。
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