2026.7.14
フィンランドでは、子を持つ4人に1人がひとり親世帯。誰も「あなたにはお父さんがいないの?」とは聞いてこない(第8回 後編)
母国で高等教育を受け、やりがいがあり高給な国の仕事に就き、故郷で次の仕事を見つけることもできたエロホは、フィンランドで働くことについてどう考えていたのだろう。彼女自身の人生についての考えを聞いてみると、彼女は「母国でない国に住むには、理由や仕事が必要だから」と言った。
「毎日、私は請求書を払う、家賃を払うんだと考えて自分を奮い立たせて働いてきた。プライドよりも請求書を払えることが一番、大事なことだった。私は自分のキャリアを犠牲にしたともいえるけど、フィンランドに来られて幸せに思っている。子どもがよければ、私にとってはすべてオッケーなの」
母国に帰ることは、今は考えていない。娘が教育を受けられるところで、働いていくつもりだ。これからどうしたいのかを聞いたとき、彼女の答えに私ははっとした。
「お金をためて、娘と暮らす家を買いたい」
それは、2年前にフィンランド語クラスで聞かれたときには、出てこなかった願いだ。彼女自身の希望が初めて聞けた気がした。彼女は今でも、母国で教育を受けられない子どもたちのことを気にかけている。宝くじで大きなお金を受け取ったら、やはり家のない子どもの学校を作るだろう。
けれども、娘と暮らす家を持つというのは、宝くじではなく、自分が働いて貯めたお金でかなえようとしている現実的な目標なのだろう。そんな希望を持てる場所にいま、彼女が立っていること、そして目標に向かって彼女が一歩ずつ近づいていることを知って、私はしびれるほどうれしかった。彼女が、食堂のバイキング形式で取るサラダや料理を楽しそうに味わい、「これは何だろう?」「素材の組み合わせが面白いな」「どれもおいしい」と感想を言っていたのも、料理の道を歩いているからなんだなと実感した。別れるとき、「ここまで、ほんとによくがんばったね!」とエロホをハグしないではいられなかった。
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そして今、エロホに会った2年前と比べて、知らないうちに私の感じ方も変わっていることに気がついた。子どものいる女性と知り合ったとき「この人もひとり親なのかな、どうかな」というのが、今の私にとってそれほど大きなことではなくなっている。日本に住んでいたときには、いつも無意識で探していたのだと思う。ヘルシンキで人と話していて楽だなと思うことは、私は小学生と中学生を育てるひとり親です、と言ったときの反応が「私は左ききなんです」、とか「私は夏に生まれました」、とか言ったのと同じくらいのインパクトだということだ。驚かれたり、居心地が悪そうにされたりすることがほぼない。
数字を見てみると、体感が裏付けられる。日本では、子どものいる世帯全体に占めるひとり親世帯の割合は6.5%、一方フィンランドでは24%。4人に1人がひとり親。さらに、事実婚などもあるので、日本でいうところの「結婚している世帯」は半分。フィンランド人同士の家庭だけではなく、フィンランド人と外国人、外国人同士の親でも、さまざまな形の「ひとり親」たちが、それぞれのやり方で子どもたちや、新しい家族たちと関係をつないでいることを、今は私も知っている。
自分や、誰かが「ひとり親」なのかどうかをほとんど意識しなくなった。ヘルシンキではひとり親のハンディを感じさせられる機会があまりないせいなのか、外国人としてのハンディを新たに感じているせいなのか、そのどちらもあるのかもしれないけれど。
(連載の文中の肩書や組織、値段や為替レートなどはそれぞれ2026年時点のものです)

第9回は2026年9/8(火)公開予定です。
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