2026.6.23
「結婚しているか、子どもがいるかで女性はステイタスが変わる」……ナイジェリアからやってきたエロホ(第8回 前編)
キャリアウーマンだったエロホは、フィンランドに住んでいたナイジェリア人の夫とオンラインで知り合った。最初は友だちだったのが、外国でひとりで寂しそうだな、かわいそうだなと思って結婚した。「親には反対されたんだけど、それがますますロマンチックだと思っちゃって。それが27歳のとき。結婚して4年目に娘が生まれた」
けれども、妊娠中から夫の暴力が止まらず、子どもにもDVの矛先が向かうことになり、離婚。
エロホにとって幸運だったのは、仕事を続けていたことだった。ヘルシンキとナイジェリアを7年の間、行き来していたという。
「離婚したとき、仕事を続けていて本当によかったと思った。経済力があったから、子どもを育てることができた」
ナイジェリアで離婚するためには、裁判所に申請し、苗字が変更されたことが新聞に載ることで認められるという。女性にとって離婚は烙印を押されるようなもの。未婚の女性はリスペクトされないが、離婚すれば「離婚した人」というふうに見られ、ひとり親家庭への支援はなく、家族などに支えてもらえなければ生活が難しくなる……。
エロホは「離婚したら男性によく誘われるようになった」とも言う。シングルマザーとして働く彼女に、「女には夫が必要だ」「男が必要だろう」と声をかけてくる人たちが増えたそうだ。
「全然そんなことないのに!」と彼女は憤慨した。
自分のことだけならまだしも、学校で子どもが「お父さんがいない」といじめられるようになった。その上、学校の先生までも。
父の日のイベントが学校で開かれ、そのためのリハーサルがあったときに、「あなたはお父さんがいないからここにいなくていいです」と先生が言い、娘が小学校から帰ってきて泣いたという。このあたりのエロホの話で、程度の違いはあるものの、方向としては似たような東京での経験が思い出された。ひとり親だと言ったときにその場の空気が変わったり、シングルマザーは立場が弱いと勘違いした男性から声をかけられたりしたことも。「ナイジェリアの話とは思えないほどわかる」と私もひとしきり、ためこんでいた日本での経験を聞いてもらった。
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離婚後、エロホは職場で、難しい選択を迫られていた。それはある不正に加担することだった。彼女はそれを断り、その結果給料が支払われなくなった。
「それは予想していたから、私は裁判で闘った。そして勝ったけれど、仕事を解雇されてしまったの」
ナイジェリアの学校は無償ではない。仕事がなくなってしまった今、彼女はどうやって一人娘を育てようかと考えた。彼女の経歴から、ナイジェリアで仕事を見つけることは難しくなかったという。けれど、ナイジェリア北東部を拠点に活動するイスラム過激派組織、ボコ・ハラムによる女子生徒誘拐事件などは心配だった。そこで、娘が二重国籍を持っていたフィンランドに行くことにした。
「多文化共生のカナダもいいと思った。ナイジェリアではいい学校に通わせていた娘のために、よい環境をあげたかった。でも外国人にはカナダの学費は高い。フィンランドでは娘に国籍があるし教育が無償だというのが大きかった」
エロホの友人や親戚も、ナイジェリアを出てあちこちの国に暮らしているという。
エロホは2021年にフィンランドに来た。国籍を持つ子どもの保護者として居住許可を申請し、就労も認められていた。彼女は2年間フィンランド語を学び、ハンバーガー店で仕事を見つけて働き始めた。最初は月700ユーロ(当時のレートで 約9万円)だったのが、2年後にはマネージャーとして月2000ユーロ(現在のレートで約40万円)を得られるまでになった。そして同時に職業大学に通い、シェフになるための勉強も始めた。
「もちろん、国を出たいと思っている人の全員がそうできるわけじゃない。私たちには選択肢があったから出ることができた」
エロホは、自分が努力したからうまく出られたのだ、とは思っていないようだった。異国で、ひとり親で子育てをして働く苦労をしながらも、故郷には自分の思うように生きられない女性たちや、身寄りのない子どもたちがいることを忘れることはなかった。それが、「家のない子どもたちのための家と、学校を建てたい」という発言になったのだろう。
(連載の文中の肩書や組織、値段や為替レートなどはそれぞれ2026年時点のものです)

第8回後編は2026年7/14(火)公開予定です。
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