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おじさんの健康のバロメーター、それはドラッグストアのポイントカードなのです

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は日々つけている美容ノートについてのお話でした。今回は嫌いで苦手だったのに、美容と健康に興味を持ち始めてから好きに変化したドラッグストアにまつわるエピソードです。

(イラスト/山田参助)

第23回 私をドラッグストアに連れてって!

 あるに越したことはないが、なけりゃないで困りはしない。いや、どっちかといえば嫌いな場所だ。私にとってのドラッグストアとはそういう場所であった。

「ウェルシア」「マツモトキヨシ」「スギ薬局」などに代表されるドラッグストア。医薬品をはじめとして、化粧品、日用品に食品と、生活に根差した商品が何でも揃う充実の品揃えが魅力である。ドラッグストアが近所に一軒あれば、それだけで生きていくのに事足りると言っても過言ではないだろう。

 だが、私はこのドラッグストアという場所が昔から苦手なんである。理由は単純明快、「私はここにいちゃいけない」という惨めな気持ちにさせられるからだ。
 美容に健康、そしてちゃんとした家族生活を営んでいるのであろう他のお客さんたちと、自堕落な生活を送っている中年おじさんの自分を見比べたとき、なんともいたたまれない気持ちになってしまうのだ。
 映画「エレファント・マン」の主人公、もしくは「ノートルダムの鐘」でいえばカジモドのような醜悪な姿をした私はここに来るべきではなかったと、レジに並んでいる間ずっと苦悩しているわけでだ。
 よく言われることだが、ファミリーレストランにはおおよそ二種類の客が集まる。ファミリーを持つ者と、ファミリーをレスした孤独な者。自分は間違いなく後者に属するものだと思い込み、私は今まで生きていた。ドラッグストア特有の少し明るすぎる照明は日陰者の私には眩しくてたまらないのだ。

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 ドラッグストアに対するネガティブな気持ちは、やがて、そこに集うお客さんへの憎悪へと変わる。
 ダラダラとウインドウショッピングをしている奴等のなんと多いことか。魅力的な商品が多数陳列されているので目移りしてしまうのもわかるが、そもそも買い物というものは、家を出る前から、ないし前日から何を買うのかをしっかりと決めておくものだ。店頭で行うのは商品の「確認」のみ、無駄のない導線で店内を駆け巡り、最短時間で買い物を終わらせることこそが買い物の美学ではないのか。

 さらに私の気持ちを逆撫でするのが、ドラッグストア名物のポイントサービスだ。アプリで新規会員登録したらお得なクーポンがとか、毎週水曜日はポイント10倍デーですよとかそういうのがウザイ。雀の涙ぐらいの割引のために「スマホの使い方がわからないわ」とか「カードはどこだったかしら?」というやり取りをレジでやってる奴等を見るのが苦痛でしかない。
 ドラッグストアに集う人々よ。ちょっとあなたたちはポイントに踊らされ過ぎてやいないか。かの哲学者ソクラテスはこんなことを言っている。

「生きるために食べよ、食べるために生きるな」
 
 あなたたちはポイントを貯めるために生きているようにしか見えない。そんな人生で本当に楽しいのか? いや、楽しいはずがない!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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