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「ポテンシャルが高く、真剣に楽しめる」大注目の名古屋市長選挙戦、最速&候補者4名の告示日レポート!

「名古屋市議会への陳情の3分の1くらいは私がした陳情だと思うよ」という太田氏。(撮影/畠山理仁)
「名古屋市議会への陳情の3分の1くらいは私がした陳情だと思うよ」という太田氏。(撮影/畠山理仁)

供託金以外の選挙費用は3千円程度。自身5回目の選挙となる太田敏光氏。

 続いて会えたのは太田敏光氏だ。私が告示前日に電話をして予定を聞くと、太田氏は「どう考えても勝てないでしょう」ときっぱり言っていた。それでも太田氏は選挙に出た。敬老パスを使ってすべての駅で降り、出口の近くで演説を行っているという。

「半年ぐらい前から初めて、もう何回か全駅を回った。最初は1番出口を全部一周回る。次は2番出口を全部回る。その次は3番出口、4番出口。今は5番出口のシリーズです」

 そういうわけで、栄駅の5番出口で待った。
 すると、そこにたった一人で黄色いファッションに身を包んだ太田氏が現れた。帽子も黄色、ジャンパーも黄色、リュックも黄色、靴も黄色だ。
 街宣車やポスターはお金がかかるから作らない。毎回、供託金を除いた選挙費用は3千円程度。戸籍抄本を取ったり、文具代だけにしか使わないという。
 太田氏が選挙に出るのは、名古屋市議選、2017年の名古屋市長選を含めて5回目だ。当選はしたことがない。自分で「勝てるわけがない」と言うのに、なぜ選挙に出るのか。

「嫌いだもん、自民党とか公明党とか立憲民主党とか。政党政治で自分たちだけでやっている。陳情にいっても相手にされないよ」

 陳情、という言葉にピンときた。実は、太田氏は名古屋市議会に対してものすごい数の陳情を行っている。陳情をすると口頭で陳情する機会、つまり発言する機会が与えられる。
 太田氏は「下手な議員よりも発言しとる(※している)」と胸を張った。そこには陳情を10年以上続けてきた自信がみなぎっている。
 陳情活動は市にとどまらない。たとえば、愛知県議会議員選挙では長い間「選挙公報」が発行されていなかった。しかし、太田氏は昔から「選挙公報を発行するべきだ」という陳情を続けてきた。名古屋市議会の傍聴席の数を増やす陳情も続け、3席、5席、7席、10席と増やしてきた。他にも市議会議員の海外視察に対して「報告書を出せ」という陳情も行ってきた。ただし、これらの陳情の結果は太田氏の「手柄」になっているわけではない。
 陳情に対する議会の反応はほとんどが「ききおく」(傾聴)で終わっている。しかし、そうした陳情が数年後に実現されてきた太田氏は言う。

「名古屋市議会に寄せられる陳情の3分の1くらいは私がした陳情だと思うよ」

 調べてみると、昨年2月には「委員会室の前後の扉を10センチ開けることを求める」陳情を行っていた。理由はコロナ対策なのかと思いきや、「室内が酸欠状態になって眠くなる。よく眠れる」と書かれていた。
 この他にも、前回の名古屋市長選挙では「女性副市長の登用」も訴えていた。実際に2017年には名古屋市初の女性副市長が誕生している。太田氏の意見は「みんなが言っていること」かもしれないが、時代を先回りしているとも言える。
 意見を言わなければ伝わらない。立候補しなければ当選もしない。そのことを実践してきたのが太田氏だった。
 太田氏はたった一人で立候補し、選挙運動も一人で行っている。それでも前回2017年の名古屋市長選挙では2万99票を獲得した。

「おれがなんで勝負できるかというと、インターネットでブログやってるから。読者が1日2千人ぐらいだから若干勝負できるかなというのもある。アクセスが集中してサーバーが落ちちゃうこともある。まあ、たまにだけど(笑)。もしインターネットがなかったら、もう勝負にならんね」

 話を本題に戻してもらうと、太田氏はこう答えた。

「客観的にみて、世間の論調でいうと勝てるわけない。あえて承知の上で出ている。だけど、本人としては何分の1か勝てるぞという希望があるからやっている。希望がない人生はおもしろくないでしょう」

 勝てる可能性は何分の1ですか。

「100分の1。たとえば河村さんが捕まっちゃうとかね。横井さんも、過去の発言との矛盾が市民に伝われば、おれの浮上があるかもしれない」

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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