よみタイ

踊らない! 歌わない! 戸田市議会議員選挙で、スーパークレイジー君はなぜ当選できたのか?

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。 前回の第30回では、選挙取材歴20年の畠山氏をして「嫉妬した」と言わしめる現在17歳、高校2年生の本気の選挙・政治論をお伝えしました。 今回は昨日、1/31(日)に投開票が行われた注目の埼玉県戸田市議会議員選挙の最速レポート! 昨年の東京都知事選挙でも注目を集めた「彼」の選挙を追いました。

自身2回目の選挙で当選したスーパークレイジー君。(撮影/畠山理仁)
自身2回目の選挙で当選したスーパークレイジー君。(撮影/畠山理仁)

公明党、日本維新の会、日本共産党など国政政党が支援する候補者たちも落選した

 みんな「負ける」と思っていたのだろうか?

 1月31日、埼玉県・戸田市議会議員選挙の投開票が行われた。すべての開票作業が終わった2月1日午前0時58分、私が「スーパークレイジー君、戸田市議会議員選挙で当選」とTwitterに書き込むと、多くの人が当選に驚いた。私は逆に、驚く人が多いことに驚いた。

 選挙に立候補している人は、誰だって当選する可能性がある。それなのに、ここまで驚かなくてもいいんじゃないか?

 そう思って選挙結果をじっくり見直すと、多くの人が驚く理由がわかった。
 今回の市議選で落選した候補者の中には、公明党、日本維新の会、日本共産党、NHKから自国民を守る党など、国政政党が支援する候補者たちもいたからだ。そんな中、一政治団体である「スーパークレイジー君党」から地方議員が誕生したことは快挙だといえる。

 それでも私は彼の当選に驚いていない。当選するだけの理由を現場で見たからだ。

 たしかに、遠巻きに見ている人にとって、スーパークレイジー君は異端の候補者だろう。
 街宣車は黒塗りのベンツ。金髪に白い特攻服。全身には入れ墨。自身の逮捕歴は7回(暴走族時代の「共同危険行為」)。中学時代から少年院に5年。
 従来の常識からすれば、マイナス要素が満載の候補者だ。当選困難だと思われてしまうのも、ある意味で仕方がない。

 しかし、私は彼が当選する日がかならずやって来ると思っていた。それは彼の選挙に対するスタンスが一貫して「正直」だったからだ。

 彼は決して自分の過去を隠そうとはしなかった。隠しきれないという理由もあるだろうが、すべて自分から話した。今の自分に政治の知識や経験が十分にないことも認めた。その上で、市民のために働く政治家になりたいと愚直に訴え続けていた。

「学歴もない自分の票が、今以上に減ることはない。あとは増やしていくだけ」

 朴訥ぼくとつな語り口の演説は、決してうまいとはいえない。しかし、自分の言葉で子どもたちにもわかりやすく話そうとする。そのことが周りにも伝わる。スーパークレイジー君の話を直接聞いた人たちは、彼の過去よりも現在、そして未来を見ていた。私は周囲の人びとの反応を見て、「当選する可能性は十分ある」と感じていた。

 選挙で当選するために絶対必要な条件がある。まずは「立候補する」ことだ。そして、当選するまで立候補し続けること。彼はその条件を満たしていた。

 どんなに有権者から好かれていても、立候補しなければ当選できない。一方で、一部の有権者から嫌われても、立候補して多くの票を獲得すれば当選できる。スーパークレイジー君は地道な活動を重ねることで、有権者の「有力な選択肢」になった。

 その結果、36人が立候補した市議選(定数26)で、25番目となる912票を獲得して当選した。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』『コロナ時代の選挙漫遊記』(ともに集英社)などの著書がある。またその取材活動は『NO 選挙, NO LIFE』(前田亜紀監督)として映画化された。
公式ツイッターは@hatakezo

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