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1月末の市長選挙と市議会議員選挙の投票率は80%超え! 鹿児島県西之表市が自衛隊馬毛島基地(仮称)の建設計画で今も揺れている

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。 前回の第34回では21日(日)に投開票となった千葉県知事選挙について、前2回の投票率データなどをもとに考察しました。 今回は、1月31日の市長選挙と市議会議員選挙の投票率が80%を超える、選挙や政治への関心が高い鹿児島県西之表市のお話。高い投票率は素晴らしいこと。ただ、その結果も含めて、まさに市民の意見を二分する大きな政治問題にずっと揺れている場所なのです。

2020年7月の鹿児島県知事選挙で当選した塩田康一現知事。選挙時は、馬毛島の計画について賛否を明らかにしてなかった。(撮影/橋本恵美)
2020年7月の鹿児島県知事選挙で当選した塩田康一現知事。選挙時は、馬毛島の計画について賛否を明らかにしてなかった。(撮影/橋本恵美)

防衛省のよる自衛隊馬毛島基地(仮称)の建設計画では、地元で激しい反対運動が続く

 選挙と政治はつながっている――

 そんな当たり前のことを強く意識させる動きが鹿児島県西之表市にしのおもてし(人口14,934人/2021年2月末現在)で起きている。

 焦点となっているのは、西之表市に所属する面積8.2k㎡の無人島・馬毛島まげしまだ。

 馬毛島は西之表市が位置する種子島北部から西へ12kmの距離にある島で、周辺は良い漁場として知られている。そこに防衛省が自衛隊馬毛島基地(仮称)の建設を計画しているため、今も地元で激しい反対運動が続いているのだ。

 地元の西之表市には、建設業関係者をはじめとして自衛隊基地建設に賛成する人もいる。その一方で、人口の40%を超える6000筆以上もの反対署名を集める市民運動も続いている。反対署名は全国でも30万筆以上が集まった。

 過去3回の市長選挙、市議会議員選挙の投票率はいずれも70%を超えた。今年1月31日に行われた市長選挙と市議会議員選挙の投票率も80%を超えた。とにかく選挙や政治への関心が高い。そこからは自らの意思で政治を動かそうという有権者の思いが感じられる。

 反対派がとくに問題視しているのは、米軍による空母艦載機着陸訓練(FCLP/Field-Carrier Landing Practice)」だ。
 FCLPは飛行場の滑走路の一部を空母に見立ててタッチアンドゴー(車輪で滑走路にタッチした後すぐに離陸する)を繰り返す飛行訓練で、訓練外の戦闘機は上空を旋回して待機する。訓練空域下が大きな騒音にさらされることもあり、現在は硫黄島で実施されている。

 しかし、2019年4月の日米安全保障協議委員会(2プラス2 ※注)共同発表では、馬毛島に作られる自衛隊施設が「米軍による空母艦載機着陸訓練(FCLP)の恒久的な施設として使用されることになる」「閣僚は、可能な限り早期に当該恒久的な施設の整備を完了させるために、緊密に取り組む意図を表明した」と明記された。

 つまり、馬毛島に自衛隊施設ができれば、米軍によるFCLPが行われることは確実だ。

 防衛省のウェブサイトによれば、「FCLP訓練は、年間概ね1~2回を予定」「現在硫黄島で実施されている訓練は1回当たり10日間程度」「訓練は日中から深夜にかけて実施」「1回の訓練において、米軍関係者が馬毛島に滞在する期間は、事前の準備等含め約1ヶ月」と説明されている。

 また、防衛省は西之表市議会からの質問に対して「日中から深夜3時頃まで離着陸を繰り返す場合がありますが、自衛隊が行う連続離着陸訓練は、基地ごとに夜間飛行時間をそれぞれ定めており、少なくとも深夜における訓練は実施しません」とも回答している。

 しかし、反対派は「米軍と自衛隊の訓練を合わせると年間150日間も離着陸訓練をすることになる」として納得せず、反対の声を上げ続けている。

(※注)日本から外務大臣と防衛大臣の2閣僚、米国から国務長官と国防長官の2閣僚が参加し、両国の安全保障に関する政策を話し合う協議体。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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