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ザ・スタークラブのHIKAGEが大病を患ってから深く考えるようになった“生きることのリアル”とパンク哲学

クールで熱くやさしい男、HIKAGEの哲学

 日本のパンクロック界に君臨する生きるレジェンドにも、現実的な悩みがある。“武士は食わねど高楊枝”とばかりに虚勢を張るのも、一種のロックかもしれないが、何も飾ろうとしないHIKAGEの言葉にはパンク魂を感じる。

「コロナ禍以降、ライブに来る客は確実に減っています。当然、俺たちのファンも年齢を重ねていて、バンドを好きとか嫌いとかでなく、そうそうライブに来れなくなっているという現実もあるので、自然な流れだとは思っていますが。では、そういう中でどうやっていけばいいのか? 俺たちには上の世代がいないから、マニュアル的なものがないんですよ」

 ライブハウスを中心に活動を続けるインディーズ系ロックバンドは、ザ・スタークラブらが現役の最年長世代になっている。ロールモデルのいない難しさ、孤独感のようなものにHIKAGEは苛まれることもあるようだ。

「もっと上の世代のバンドもいるにはいるんですけど、年間に30本も40本もツアーをやる、俺らのようなタイプのバンドはいないので、何を参考にすればいいのか分からないんです。そもそも、この歳までやってるなんて想像してなかったんでね。下の世代は多分、俺たちなんかを手本として見てるんですけど、こっちはこっちで、この先どうやっていけばいいかわからなくて困ってますよ。いっぱいいっぱい(笑)。『勘弁してくれよ』みたいな気持ちは、ありますよね」

 若い世代にも好きなバンドはいるというHIKAGEだが、彼らのやっているような音楽を自分のバンドに取り入れられるわけではない。『俺たちがやる音楽ではない』という考えが頭をもたげるのだという。18歳や20歳の子が自然に自分たちのことを好きになるわけがないから、この歳になって20歳のバンドと競う理由はないのだと。

「ビジネスを考えるなら、若い世代を客にしなきゃいけないと思って、みんなあがくんだけど、俺はそういうことはまったく考えない。やせても枯れても俺たちはパンクバンド。パンク以外の何物でもないっていう基本の考えが、俺の中にはあるんでね。スタークラブのライブには10代のファンも来るけど、それは親が好きで影響を受けてるだけで、何もない若いやつが突然、俺たちのファンになるわけはないんです」

ときに柔和な笑顔も交えて、どんな質問にもまっすぐに答えてくれたHIKAGE。(撮影/木村琢也)
ときに柔和な笑顔も交えて、どんな質問にもまっすぐに答えてくれたHIKAGE。(撮影/木村琢也)

「“ゼロ地点”の俺たちは、誰にも負けないという100パーセントの自信があって、もっとも美しかった」

 パンクであることの矜持は、HIKAGEが生きる上での最大の糧なのだ。
 だが、それゆえに自分が立たされている苦境を、冗談めかしてこんなふうにもいう。

「なんで引退できねえんだろう、みたいな。昔はよく、仲のいい若い奴に『俺たちが金を積み立てて、未来はHIKAGEさんたちを食わせますよ』と言われて、『“ロック年金”か、よろしく』みたいにいってたんですけど。パンク連中は売れていないので、実現はしませんね。
 ただ矛盾しているようだけど、今でも失敗は恐れてないんです。俺たちはそもそもスタート地点がネガティブだから。バンドをはじめた頃はパンクなんて誰も知らないから、『下手くそなガキが』ってバンバン批判されて、『お前らなんかに未来はない』って見られていました。そういうところからはじめているから、どんなに失敗してもそこに戻るだけ。そして、その“ゼロ地点”の俺たちは、誰にも負けないという100パーセントの自信があって、もっとも美しかったときでもある。あそこに戻るだけなら、それもいいじゃんっていつも思っているんですよ」

 あまりにも飾らないHIKAGEに聞いた。なんで、そんなに正直な話ができるんですかと。

「基本的に嘘つくのが嫌い。自分に嘘がつけないので。歌詞でまったく作りもんの話は書けるけど、現実の世界で嘘は苦手で。映画『ゴッドファーザー』に、アル・パチーノが奥さんから『あなたが殺したの?』と問い詰められるシーンがあります。アル・パチーノは『今回だけは聞いていいが、二度と聞くな。本当のことを答える』と言って、殺してないと嘘をつくんです。彼はその嘘を死ぬまで背負っていくんですけど、男はやっぱりこうあるべきだなと思っていて、自分が弱くなるとそのシーンを見返すようにしています。
 俺は嘘をつけないけど、もしどうしてもそうしなきゃならないのなら、一生背負って生きて真実に変える。そんな強さがほしいんですよ」

 HIKAGE流パンク哲学は、やはり圧倒的に格好いい。

以下、第4回へ続く。9月30日配信予定です。お楽しみに!

【プロフィール】
ヒカゲ/1959年生まれ、愛知県名古屋市出身。
1977年、名古屋でHIKAGEを中心に結成したザ・スタークラブのヴォーカル。
現メンバーは、HIKAGE(ヴォーカル)、TORUxxx (ギター)、HIROSHI(ベース)、MASA(ドラムス)。
1977年、名古屋でHIKAGEを中心に結成。後のインディーズ・ブームに先駆けて1980年1stミニ・アルバム発表。1984年、徳間ジャパンからメジャー・デビューするまでインディーズ・チャートを独走する。
1986年、ビクターへ移籍後、2003年にスピード・スター・ミュージック、
2004年にクラブ・ザ・スター・レコーズ、そしてノートレスとレーベルを移しながら、年ごとの新作発表及び全国ツアーと絶え間ない展開を現在まで続けている。
2023年、バンド結成47年目を迎える今も、止まる事なく走り続ける、唯一無比の日本のパンク・ロック・バンド。

公式X(旧ツイッター):@thestarclub
公式HP:ザ・スタークラブ公式HP

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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