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KERAと有頂天とナゴムと僕。5時間に及んだKERA還暦ライブを見ながら思ったこと

アラフォー以下の世代にとっては、劇団「ナイロン100℃」の主宰であり、劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチとしての活動のほうが、よりなじみがあるかもしれない。
しかし、KERAは日本のインディーズ史において多大な影響を与えたレーベル「ナゴムレコード」の主宰、またバンド「有頂天」のヴォーカルなど、ミュージシャンとしてデビューし、今年1月に還暦を迎えたいまなお、日本のカルチャーシーンの最前線で活躍する人物である。
2023年3月25日、恵比寿ザ・ガーデンホールで開催された。「KERA 還暦記念ライブ〜KERALINO SANDOROVICH 60th Birth Anniversary Live〜」。
チケットはもちろんソールドアウトとなったこのライブを『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』の著者であり、有頂天やナゴムレコードと密接な関係がある雑誌「宝島」の編集にも携わっていた「smart」元編集長・佐藤誠二朗氏はどう見たのか? 熱きライブレポート&エッセイです。

(取材・写真・文/佐藤誠二朗 ライブ撮影/江隈麗志)

ホールを埋め尽くすオールドナゴムキッズの前に降臨した バリバリ“有頂天モード”のKERA

2023年3月25日の恵比寿ザ・ガーデンホール。
開演時間の17:30になると客電が落ち、ショーのスタートを告げるオープニングSEが流れはじめた。
このとき早くも、客席を埋め尽くす僕のようなオールドナゴムキッズの多くが、鳥肌を立てていたはずだ。
なぜならそのSEは、有頂天が1986年9月にリリースしたメジャーデビューアルバム、「ピース」の冒頭に使われていた音だったからだ。

還暦ライブがおこなわれた恵比寿ザ・ガーデンホール
還暦ライブがおこなわれた恵比寿ザ・ガーデンホール
来場者全員に配られた88ページもある分厚いパンフレット(20ページの別冊付き)
来場者全員に配られた88ページもある分厚いパンフレット(20ページの別冊付き)

ステージ上には昨年結成の新バンド、KERA & Broken Flowersのメンバーを中心にホーンセクションも加わった大編成の演奏陣、そしてコーラスを務めるナイロン100℃の劇団員がずらりと並び、本日の主役の登場を待つ。
ステージ背面のスクリーンには、現在に至るまでの彼の足跡をたどる映像が流れている。

おもむろにマイクの前に現れた御大を、すべての観客が大喝采で迎えた。
だが照明が後ろから当たっているため、シルエットしか見えない。
“有頂天モード”を象徴する、ウニのように逆立てたスパイキーヘアだ。
ホール左右の壁面に、その姿が影絵となってデカデカと映り、神々しささえ漂う。

一転してステージ上をまばゆい光が満たすと、KERAの姿が初めてはっきりと見えた。
この還暦記念ライブのため特別に用意したのだろう、真っ赤なパンツを履いている。
そして一曲目の『神様とその他の変種』を歌いはじめた。
KERA & Broken Flowersの前身、ケラ&ザ・シンセサイザーズ名義で2007年に発表した曲だ。
KERAの伸びやかで自由自在な歌声は、“あの頃”と何も変わりなくて、僕はどんどん気持ちよくなっていく。

そこから展開された、長時間のKERAオンステージを目の当たりにしている間、僕の心は高校生だった1980年代と現在の間を行ったり来たりしていた。

ステージに降臨した還暦のKERA。(撮影/江隈麗志)
ステージに降臨した還暦のKERA。(撮影/江隈麗志)
60歳にして、金髪スパイキーヘアがこんなに似合う人って他にいるだろうか?(撮影/江隈麗志)
60歳にして、金髪スパイキーヘアがこんなに似合う人って他にいるだろうか?(撮影/江隈麗志)

初めて生の有頂天を見たのは 1986年10月の渋谷公会堂だった

1986年10月1日。
それは高校2年生だった僕が“今をときめく”噂のバンド、有頂天を生で初めて見た日だ。
メジャーデビュー直後の渋谷公会堂公演で、インディーズ時代の代表曲たちにアルバム「ピース」収録の新曲たちを交え、当時ベストの全24曲を披露した圧巻のステージだった。

有頂天のメジャーデビューアルバム「ピース」(キャニオンレコード 1986年9月リリース)
有頂天のメジャーデビューアルバム「ピース」(キャニオンレコード 1986年9月リリース)

アンコールのときだったのだろうか。
メンバーが曲のイントロを演奏しはじめているのに、ボーカルのKERAだけがなかなか出てこなかった。
あれ、おかしいぞ、どうしたのだろうと誰もが思いはじめた頃、ロープでぐるぐる巻きになったKERAが舞台袖から転がるようにして現れ、つんのめりながらステージ中央のマイクに飛びついて歌いはじめた。
その瞬間の映像が、今も僕の頭の中には鮮明にこびりついている。

雑誌「宝島」の記事などで、有頂天というバンドは結成当初から、演劇的な要素の強いステージを展開していたということを知っていた。
でも僕が有頂天ファンになったブレイク前後は、演劇要素を抑え、ほぼ音楽のみで勝負するようになっていたのだが、ロープぐるぐる巻きのKERAというコミカルな演出に、「なるほど、これか」と思った。

そしてそのライブ以降、有頂天とその中心人物であるKERAに、僕はますます強く心惹かれていくのだった。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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