2021.8.27
禁止になった交霊術
「なんだろう。この丸、よくできましたってことかな?」
さあねえ、と私はため息をついた。まったくもう、バカなB子は気づいていない。
私たちが今描いたのは、A子の似顔絵じゃないか。少なくとも髪型はそっくりだ。
エンジェル様には濁点がないから「うらへ」となったけど、これはA子の「浦辺」という苗字に決まってる。
B子の質問に、A子は自分の霊が来たという新しいアイデアで対応したのだ。それなのにまたB子が勘違いしたので、もっと直接わかりやすく、似顔絵を描いてあげたのに……。
私はA子の意図わかってるからね? とアイコンタクトしたとたん「もういい、やめよう」A子は低い声で紙を取り上げて、席を立った。
「これ私が捨ててくるから」そのまま、すたすた教室を出て行ってしまう。
あーあ、へそ曲げちゃった。
きょとんとするB子に「変なエンジェル様だったね」と声をかけ、私たちも帰り支度をはじめた。
この直後、A子は死んだ。
エンジェル様の紙を捨てるため、A子は近くの川を訪れていた。
まだどしゃ降りというほどでもなく、それなりに車や人も出ていた。
だから油断していたのかもしれない。
川原をうろつくA子、そのまま足を滑らせて落ちたA子を、多くの人が目撃している。
運悪く、上流の方ではもっと雨が降っていたから、水の勢いは見た目よりもはるかに強かった。
A子の姿は、あっという間に消えていったそうだ。
そして私たちの学校では、エンジェル様が禁止になった。
8月6日 あの家に住んでいた頃のこと
8月9日 川の上流から流れてくるもの
8月13日 「チヨちゃんが来たんだね」
8月16日 小人が見える女子大生
8月20日 夏休みに流れた噂
8月23日 振り向いてくれない美人教師
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7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの