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禁止になった交霊術
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

禁止になった交霊術

 私の中学校で、今さらコックリさんみたいなのがはやりだした。
 九州のド田舎なので色々と時間差があるのかもしれない。
 ただそこは、ちょっと現代風に「エンジェル様」とアレンジされている。「あ」から「ん」までの平仮名を書いた紙の上を、鉛筆が動いてメッセージをもらうやつだ。
 エンジェル様の設定はゆるい。幽霊じゃなくて天使が答えるから、コックリさんみたいに「ころすころす」とか言わないし、やめたかったらすぐ終わっても大丈夫。いつまでも帰らなくて困ることはない。
 ただ一つだけ、守らなくちゃいけないルールがある。終わった後の紙は、ぐしゃぐしゃに丸めてから燃やし、その灰を川に流さなくてはいけない。そうしないと死ぬ。……なんていうけど、多分これ、先生や親にバレないように証拠隠滅しろってことだろう。
 
 その日の放課後、教室はがらんとしていた。
 台風が近づいてきたせいで、早く帰宅するようにと指示が出ていたからだ。でもまだ雨足も弱いし、告げ口する生徒がいないのは、せっかくのチャンスでもある。
 私とA子・B子の三人は、一回だけエンジェル様をやろうということになった。
 三人で握った一本の鉛筆が、どんどん紙の上をすべっていく。
 芸能人の住所がどこか、誰が誰を好きなのか。くだらない質問にもエンジェル様は答えてくれる。
 まあこんなの、A子が動かしているだけなんだけど。
 それは私もわかっている。心霊ものが好きなA子は、こうやって場を盛り上げるのが得意だ。別に示し合わせてる訳じゃないけど、私も空気を読んで、その動きに逆らわない。エンジェル様初体験で、とても素直なB子だけが、「うわー本当に動いてるよお」と驚いている。
 こういう連携で、もう一人の子を怖がらせるのが、よくあるパターンだ。学校でエンジェル様がはやったのも、うちらみたいなインチキを楽しむ子が多かったからだろう。

「えっと、あなたは誰ですか?」
 しばらく進んだところで、B子がトンチンカンな質問をした。誰もなにも、呼んでるのは天使だって言ってるのに。
 ピタリ、と鉛筆の動きが止まる。A子もなんて答えてよいのか迷っているのだろう。十秒ほどして、ようやく動いた鉛筆の先が、次の三文字を示す。

「う」「ら」「へ」

 あれ、と思った。横目でうかがうと、なにを仕掛けようとしているのか、A子は無表情で固まっている。
「これ、裏返せってことだよ!」B子がはしゃいだ声をあげて、紙をひっくりかえす。
 そのとたん、鉛筆がすごい勢いで動き回った。裏の白紙に、ぞんざいなタッチで女の子の顔が描かれていく。
 次に、鉛筆がぐるぐると円を描きだした。二重、三重、四重の丸ができたところで、ころり、と鉛筆が転がった。いつのまにか三人とも手を離していたのだ。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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