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大人が「かわいい」「かわいくない」で態度を変えることがあるなんて……第3話 トンボ柄の浴衣

 ある日、車で10分ほどの場所に新しい回転寿司がオープンしたというので親戚の誰かが私と祐実お姉ちゃんを連れて行ってくれることになった。
 田舎なので新しい飲食店がオープンするのはちょっとしたニュースで、特に私は外食の習慣がない家に育ったので、新しいお寿司屋さんにワクワクしながら向かった。
 比較的空いた店内のカウンターに並び、回るお寿司を眺めながらイクラや納豆巻きなど当時の大好物を素早く取った。子供にとって回るお寿司を取る行為は本当に楽しいので、私はテンションが上がっていた。
 すると、隣にいた祐実お姉ちゃんは何やら「何食べたい? なんでも言ってね」などとカウンター越しの店員に話しかけられている。
 私は内心「だめだなあお姉ちゃん、何を食べるか迷って決められないのかな? こういうのは直感で決めないと」などと思っていたのだが、別に祐実お姉ちゃんは何も皿を取っていないわけではなく、なにかしらの寿司を食べながら会釈していた。
 その間、私は寿司の皿を迷わず取りもりもりと食べ続けるが、祐実お姉ちゃんはなにかと「(お寿司)握るよ?」「おいしい?」とか聞かれている。

 寿司職人の目の前に座るとああやって話しかけられるんだなあ、と思ったが、それにしても私は一切何も言われない。「美味しい?」とかも聞かれない。なんだか徐々に嫌な気持ちになっていった。というのもまだ子供なので、年齢が下の子ほど気に掛けられる、ということに慣れており、特に外食というちょっとした非日常の場では、周囲の高揚感に便乗し多少のわがままも許されることを学習していたし、食べれば食べるだけ褒められ、逆に食べなければ「もっと食べなさい」などと背中を押してもらえる、それが私の知る大人と子供の関係だった。親などはあれこれ注意もするが、他人の大人は小さな子供を甘やかす、それが大人の態度だと信じていた。
 あるいは、子供に好かれることを放棄している大人が大人同士で盛り上がり、子供たちは放っておかれるという光景なら見たことがあった。
 しかし、今回の出来事は初めてである。大人から見ればまだ幼い自分が放っておかれ、年上が世話を焼かれる、可愛がられるという光景になんともいえない悔しさを感じたし、大の大人が年下贔屓ひいきルールを無視しているという非難がましい気持ちにもなった。
 それと同時に、大人というものはより幼い方の子供を気にかける、というセオリーが崩れ、では一体なぜ祐実お姉ちゃんが、それも普段のイメージではしっかり者の長女の祐実お姉ちゃんがあれこれ気に掛けられているのかと疑問が湧いた。そしてすぐに答えが出た。
 祐実お姉ちゃんは可愛いからだ。
 ほぼ直感に近い形でそう判断するまでには、それまでに培った過去の経験も関わっている。

次回は8月16日(水)公開予定です。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
講談社のマンガWEBコミックDAYSにて「スルーロマンス」連載中。

Twitter @umek3o

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