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「子どものいないあなたにはわからない」で口を閉ざしてしまわないために――武田砂鉄×高瀬隼子 対談「父/母ではない立場から書くということ」

1月26日の発売から即重版となった『父ではありませんが 第三者として考える』。ライターの武田砂鉄さんが、「父ではない」立場から、親、子、家族をめぐる言説について考えた一冊です。
本書の刊行を記念し、デビュー作『犬のかたちをしているもの』で、産む、親になる、という営みを「産まない」女性を通して描いた、芥川賞作家の高瀬隼子さんをお迎えして、「父ではない」「母ではない」立場から、言葉を発していくことについてお話ししていただきました。
2月26日に本屋B&Bにて開催されたイベントの内容を、ダイジェストでお届けいたします。

(構成/よみタイ編集部 撮影/齊藤晴香)

武田砂鉄(以降、武田) 高瀬さんの小説『犬のかたちをしているもの』と、自分の『父ではありませんが』は、奇しくもリンクするところがありますね。子どもを持つ、持たない、持たされることになるかもしれない、そのあたりの揺らぎが書かれています。本作が高瀬さんのデビュー作ですよね。

高瀬隼子(以降、高瀬) これがデビュー作です。今回自分で読み返したときに、3年以上前に書いた小説なので、結構細かいところを忘れていて。
この小説では子どもを持つ、持たないの話を書いているんですけど、その先にある子どもの幸せとか、生まれてくるその子の未来とかまでは考えていない話なんです。あくまで親になる人、あるいは親になるかもしれない人、産む人と、産まない人と、男性なので産めない人とかが出てきて、わちゃわちゃする話。
『父ではありませんが』を読んで、自分の小説を久しぶりに忘れた状態で読み返せて良かったなと思いました。思考がまた進んだ感覚があります。

武田 この小説の中に、「無条件に子どもが好きな人、というのが一定数いる。街を歩く子どもを見てかわいいと思い、電車やバスで隣に乗り合わせた子どもにほほえみかけ、その親の見ていないところで小さく手を振ってみせるような人が。自分もそういう人間だったら、楽だったろうと思う。子どもが好きで、赤ちゃんを愛おしいと当然のように感じ、大人になったら絶対に子どもがほしいと、自分が子どもの頃から思い続け、社会に出たばかりの頃からそわそわとし、二十代の間には実際に行動に移すことができる人だったら。たとえ今と同じ体の状況だったとしても、悩む方向が、なんというか、世間と足並みが揃えられるって楽ちんじゃないか」という箇所があります。

まさに「世間と足並みを揃えるのが楽ちん」という状態が、自分の今回の本の出発点でもあります。あるいは、本の中でずっと横たわっている問いかけです。自分の考えを持つよりも、世間にそのまま流れを合わせているほうが楽ちんだ、そのように思わされているんじゃないかと。

高瀬 そうですね。この主人公は特にずっとそういうことを考えているような話なんです。

武田 あるいは、この箇所にも似た問題提起を感じました。
「わたしは、子どもを作って育てて産むことは、全部女だけのもので、どこにも男に明け渡す部分はないように感じていたけど、産み落として外に出してしまうと、男が関わってくるのだった」という箇所。自分の本でも書いた問いかけです。父であろうが、父でなかろうが、いずれにせよ、子育てにおける男の関与について。この2冊をセットで読むと、解決するんじゃなくて、思考がグルグルするはずです。

高瀬 解決はしないですね。

武田 解決はしないんですけど、頭の中で問いがいくつも回り始める、と。

武田砂鉄さん(右)がパーソナリティを務めるラジオ番組に、ご自身の芥川賞贈呈式の直後に出演したことがある高瀬隼子さん(左)
武田砂鉄さん(右)がパーソナリティを務めるラジオ番組に、ご自身の芥川賞贈呈式の直後に出演したことがある高瀬隼子さん(左)
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武田砂鉄

たけだ・さてつ
1982年生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。2015年『紋切型社会』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『日本の気配』『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』『べつに怒ってない』『今日拾った言葉たち』などがある。週刊誌、文芸誌、ファッション誌、ウェブメディアなど、さまざまな媒体で連載を執筆するほか、近年はラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。

高瀬隼子

たかせ・じゅんこ
1988年愛媛県生まれ。立命館大学部文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。2022年『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川賞を受賞。その他の著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』(ともに集英社)がある。

撮影/露木聡子

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