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「ブス、デブ」は小学生男子が誰にでも言う悪口だと思っていた 第4話 めくられない私

それは、まだ別のどこかのことは知らない、遠い北の地での暮らしでした――

『まじめな会社員』で知られる漫画家・冬野梅子が、日照量の少ない半生を振り返り、地方と東京のリアルライフを綴るエッセイ。
前回に続き、冬野さんと「ルッキズム」の出会いについて。

(文・イラスト/冬野梅子)

第4話 めくられない私

 小学3年生当時は、まだはっきりと自分自身をブスだと思っていたわけではない。かといって、どうも可愛いとか美人とかそういう人間でもないらしいということは薄々勘付いていた。
 まずは幼稚園の年長、この頃すでに女子と男子が対立する光景はめずらしくなく、スカートめくりをされそうになり、怒りながら両手でスカートを押さえる同い年の女の子を見かけ「手伝ってよ!」とその女の子に言われたので一緒になってスカートを押さえ加勢したのだが、その時二人いたうちの一人の男子に「お前のはめくってやんねーよ」と言われたのだった。
 当時は、そのなんとも言えないモヤモヤした気持ちを消化できないでいた。
 そのモヤモヤはすぐに正体を掴むことはできずしばらく考えたのだが、まず最初に困惑したのは、この言葉に傷つくということは私は「スカートめくりをされたい変な人」なのではないか?という不安だった。

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 幼稚園児ですでに、スカートめくりをされたいなどと、それも女の子が思うことはなにか悪いことであると認識はしていたので、自分が恥ずかしい悪い存在に思えた。しかし、いくら考えてもやはりスカートめくりはされたくない。スカートをめくられるというのは楽しくないし、パンツが公共の面前に晒されることは恥ずかしい。それにめくる側はその恥ずかしさを与えたくてやっているということもなんとなくわかるし、だからこそスカートをめくられることじたいが「負け」を意味し、めくられたくないと必死に抵抗するのだ。
 ところが、「めくってやらない」という言葉は、なにか男子にとってはいいこと、サービスのようなものを、私自身には施してやらないという言い方に聞こえる。そしてあの言い方は、それを私が欲している前提で、あえて意地悪として「してやらない」と言っているニュアンスである。私はスカートめくりを欲していると思われているのか? 私が知らないだけでみんなそうなのか? どの女子もみんな嫌がっているし私も嫌だ。にもかかわらず、スカートをめくるということは何か彼らの中では「与えてやっている」という感覚があるらしく、そうなると、なんだか自分にだけその価値がないような、劣った存在に思われた。しかしスカートはめくられたくないはずで、しかし劣位に置かれるのは嫌だ……そうした複雑な感覚を処理できずにいた。
 今となれば、スカートめくりを一方的に「承認」に位置付ける園児の感覚が誤りであり、このような迷惑行為じたい早々にやめるよう教育されるべきなのだが、当時の私にはきちんと切り分けて理解することが難しかった。そしてスカートを押さえていた女の子は、小柄で華奢でいつもワンピースを着て頭にリボンを載せたお人形さんみたいな女の子であり、反対に私は親戚のお下がりの毛玉のついたような男の子用の衣服を身につけ、お人形さんみたいな女の子と程遠い自覚はあった。そしてそれは「めくってやらない」女の子の姿らしかった。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
最新刊は『スルーロマンス』(講談社)全5巻。

Twitter @umek3o

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