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身体を張った実験で見えた「未来」の輪郭。AIと暮らしたテック系ジャーナリストの1年

国内外のさまざまな人、モノ、場所を取材してきたライターの川内イオ氏。
氏の趣味でもあるノンフィクション乱読から、読む者を異世界へといざなってくれる本をセレクトして紹介する書評連載です。
第11回は、ジョアンナ・スターン著、加藤輝美訳『365日AI AIだけで暮らしてみた壮大な実験の全記録』を取り上げます。

ふんわりとした不安と危機感

「AIに仕事を奪われるのでは?」という不安を抱えている人はどれぐらいいるだろう? 24歳でフリーライターになって23年、僕もぼんやりとした危機感を持っている。

 問題は、「ぼんやり」の部分だ。AIの性能についてはさまざまな情報があり、最近は「人類存亡に関わる」という終末論的な報道もあるけど、話が壮大過ぎて現実味がない。

 仕事に関しても、ネット上では「使いこなせなければ淘汰される」という煽り文句が氾濫する一方で、「だからAIを学びましょう」という習いごとビジネスに結びついている感もあり、距離を置きたい気持ちになる。

 ちなみに僕はチャットGPTに課金してTシャツやチラシのデザインをして遊んだり、お金回りの計算をしたりしているので、初心者ながらまったくの無知ではないと思う。

 でも、現時点で自分の仕事がAIに取って代わられるというイメージがわかない。「ハルマゲドンが来るぞ、来るぞ」と脅されてビクビクしながらも、ハルマゲドンがどんなもので、具体的にどんな被害を及ぼすのか、よくわからない状態だ。

 生活に関しても同様で、AIが浸透した未来がうまく思い描けない。我が家で長年活躍している掃除機ルンバのように、人間にとって面倒な作業をAI搭載のマシンが担うようになって「便利になるんだろうな」程度の感覚だ。

 この、我ながらふんわりとした認識の解像度をググっと上げてくれたのが、『365日AI AIだけで暮らしてみた壮大な実験の全記録』(ジョアンナ・スターン著、加藤輝美訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)である。

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「本物の具体的な答え」を得るための実験

『ウォール・ストリート・ジャーナル』でテック系ジャーナリストとして長年執筆してきた著者が、自分の仕事や生活にAIを落とし込んだ時、具体的になにができて、なにができないのか、1年かけて徹底検証したのが本書である。「AIを使い倒してみた!」的なライトなノリではなく、筋金入りのジャーナリストとしてAI企業の関係者にも取材を重ねており、納得感と読み応えバッチリの内容だ。

 著者は、「はじめに」でこう記す。

――「周りを見渡しても、目に飛び込んでくるのは、『AIのもたらす未来は、これまでのどんな技術革命とも違ったすごいものになる』というメッセージばかり。しかもその到来のペースはおそろしく速い。なのに、肝心の部分は曖昧でモヤモヤする」「派手な宣伝文句や実のない社交辞令はもうたくさんだし、むやみにディストピア的な未来に不安を抱くのもごめんだ。欲しいのは、本物の具体的な答え」――。

 まさに! 経験豊富なジャーナリストが、僕と同じように感じていたことに、ホッとした。著者にとってもAIは曖昧模糊としていたのだ。

 著者が「ありとあらゆる局面に、できるかぎりAIを取り入れます」と宣言して、実験を始めたのは2025年1月1日。「本物の具体的な答え」を得るために医療、仕事、娯楽、人間関係、セラピー、旅行、性生活など暮らしにまつわるあらゆる場面でAIを検証する。それはまさに「異世界」だった。

撮影:川内イオ
撮影:川内イオ

ビル・ゲイツも登場

 著者がこの実験で試したAI製品は100以上、インタビューしたのは200人以上。なるべく多くの製品を使ってみて、仕事や生活に役立てば継続して使い、支障が出たらすぐにやめるというシンプルなルールだ。

 そして、肝心の評価基準は「これって人間がやるよりいい?」

 これはとても大切なポイントである。いくらAIが進化しても、人間のほうが優れている能力もあるに違いないし、そう思いたい。僕のように「AIに仕事を奪われるのでは?」と怯える人間は、その境界線が知りたいのだ。

 本書で触れられている実験は、どれも興味深い。例えば、AIを活用している病院での乳がん検診や歯科検診のレポートを読むと、人類に恩恵をもたらすだけでなく、余計な治療をすすめられ、ぼったくりの被害に遭う可能性も秘めているとわかった。AIはあくまでツールだから、使う人間によって善にも悪にもなるということだ。

 著者は、日常生活における自分や家族、飼い犬の健康の不安に関しても、チャットGPTに相談して、採点している。「医療情報はAIに聞いてはいけない」とよく言われているけど、その結果はいかに? 

 医療におけるAI活用について、ビル・ゲイツにもインタビューしている。「確実に5年後には、医療は今より劇的に向上していると思います」という彼の楽観的な未来予測は、正直に言って腑に落ちなかった。「善」の側面しか見ていないと感じたからだ。

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川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
著書に『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。
新刊『煮魚をつくったら、人生の悩みがじわじわ消えた〜45歳からの大人の家庭科入門』が大和書房より発売中。

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