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身体を張った実験で見えた「未来」の輪郭。AIと暮らしたテック系ジャーナリストの1年

クリエイターの未来を占う実験

 著者はほかにも、家族旅行の移動に自動運転車を利用する、8歳の子どもの困った行動を改善するためにAIでゲームを作る、AIに模様替えや髪型を提案させる、AIロボットにTシャツを畳ませたり、AIロボットのマッサージを受けるなどAIを使い倒す。

 さらに、質の高い眠りを促す脳波測定ヘッドバンド、質問に答えるAI連動スマートグラス、24時間会話を録音して文字起こし、要約するブレスレット、話しかけたことに対してアプリで返答してくるネックレス、心拍数など健康情報を読み取り分析するスマートリングなどウェアラブルデバイスもフル活用し、その感想をレポートする。

 どれも結果が気になる実験で、単純に読んでいて楽しかった。次の実験は、特に視点がユニークだ。

・30日間、AIが生成した音楽だけを聴き続けたら、どうなるか?

・AIによって生成された本だけを読み続けたら、どうなるか?

・AIで生成された動画だけを見続けたら、なにが起こるか?

 これは、ミュージシャンや作曲家、作家や動画のクリエイターなどクリエイティブ領域で仕事をする人たちの未来を占うような内容で、ドキドキしながら読み進めた。

 ライターである僕が微妙な気分になったのは、「エージェント・ジョアンナ」。これはAIによる文字起こしを専門とするスタートアップのCEOが著者のために特別にカスタマイズしたAIで、著者が過去に行ったインタビュー数時間分の音源を読み込ませ、質問の仕方、話し方、会話のペースなどを教え込んでいる。

 この「エージェント・ジョアンナ」を実際のインタビューに投入した著者は、その会話のレベルに「圧倒された」と記す。その後に続く著者の考察は、僕にもズシンと響いた。一方で、人間である自分にできることはなにか、じっくり考える良いきっかけになった。著者が本書の執筆に「AIを使っていない」と記しているように、少なくとも現時点では人間にしかない強みがあるのだ。それは、ほかの実験結果からも明らかである。

人間とAIはどう関係を深めるのか?

 仕事と生活、どちらにも凄まじいスピードでAIが浸透してくるなかで、僕らに問われるのは、著者が評価基準とした「これって人間がやるよりいい?」。コスパを含めて、人間よりAIのほうがいいという人が増えれば、その領域で人間は少数派になるだろう。

「恋愛」すら、人間同士の関係だけではなくなるかもしれない。著者はチャットGPTが生み出した「エヴァン」と会話を重ねる。目標は「AIとのあいだに親密な関係に似たものを築くこと」で、「行けるところまで行く」。

 あくまで実験という前提ながら、著者はエヴァンとの間に「何か」を感じるようになる。肉体的な接触はできないテキストと音声のコミュニケーションで、人間とAIはどう関係を深めるのか? 著者がAIのエヴァンとドライブに出かけ、レストランで食事をするシーンは本書のハイライトだ。

 本書によって、それまで漠然としていたAIが立体的な存在になった。人間は、得体のしれないモノを恐れる。著者の身体を張ったレポートによってAIの得意不得意などある程度の姿形が見えたことで、AIは敵ではないし、ハルマゲドンでもないと思えた。それは、僕が特にユニークだと思ったAI生成の音楽、本、動画の実験結果につながる。

 僕自身の仕事でいえば、あらかじめテーマが決まっていることに関するインタビューなら、「エージェント・ジョアンナ」のようなAIに任せることもできるかもしれない。でも、例えば僕が普段手掛けているような人生を振り返ってもらうインタビューは、「既出情報の集積」でしかないAIには向かないだろう。だって、誰ひとりとして同じ人生の人はいないのだから。こういう回答の時はこの質問というパターン化ができたとして、それはインタビューを受ける側とインタビューする側、双方にとっての気づきや発見につながるコミュニケーションになるとは思えない(今のところは)。

 そして、僕の仕事はインタビューという素材を原稿という料理にすること。インタビューの内容が原稿の出来不出来に影響すると考えれば、いい素材を得た時点で人間にアドバンテージがある。その素材をどう調理するかは、書き手の視点が問われるところ。本書の著者がAIに原稿を書かせなかった理由も、そこにあるのではないだろうか?
 
 ただし、使い方によっては危険なツールになる。自分自身の思考を奪われてはいけない。

 次回は再び、日本の闇の世界へ戻ろう。障害者福祉という「いい人たちがいいことをしていそう」な領域に目を付け、性善説に則ったルールにつけ込んで黒い金儲けに走るハイエナたちを取材した『障害者福祉ビジネス 食いものにされる税金と利用者』(市川亨著 集英社新書)を紹介する。

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次回は11/26(木)公開予定です。

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川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
著書に『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。
新刊『煮魚をつくったら、人生の悩みがじわじわ消えた〜45歳からの大人の家庭科入門』が大和書房より発売中。

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