2026.5.28
韓国史上最悪のデジタル性犯罪「n番部屋事件」の解決に貢献した「追跡団火花」。その正体は、女子大生二人組だった。
「追跡団火花」結成前夜
ここまでが、本書の前半の内容だ。中盤では、筆者であるプルとタンの出会いやそれぞれの生い立ちが語られる。このパートを読むと、韓国における家父長制や男尊女卑文化が「n番部屋事件」の背景にあることが伺える(日本で目にしたり、耳にしたりすることと五十歩百歩でもある)。
例えば、ノーメイクの女性に対して「顔を家に忘れてきたのか」という男性や、髪をショートカットにしたタンに「男みたいだな」という先輩。学園祭のゲストに「女性嫌悪的歌詞」で物議を醸したヒップホップ歌手を呼び、そのままステージに立たせる大学。
プルが記者のインターンをしている時には、盗撮データが共有されているネットコミュニティを告発する記事を書いたところ、男性記者から「この内容じゃ記事というには微妙だなあ」と記事化を見送られた。この記事はその後、女性記者のチェックを受けて公開され、5000個のコメントが寄せられたという。
このような文化や風潮に疑問を抱き、時には体当たりで抵抗しながら育ったふたりだからこそ、少女を食い物にする「n番部屋事件」を見過ごせなかったのだろう。ふたりは被害者が二次被害を受けないよう常に気を配っており、本書もそのように構成されている。
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メディアの引っ張りだこに
後半は、新聞連載「n番部屋追跡記」の想像を超える反応と、彼女たちのその後が描かれている。
「n番部屋追跡記」は、2020年3月10日から4日間、国民日報の一面に掲載された。その時点で話題を呼んでいたふたりがさらに脚光を浴びることになったのは、3月17日に「博士部屋」の運営者、チョ・ジュビンが逮捕されたからだ。テレグラムのチャットルームで行われている犯罪行為に誰よりも詳しいふたりは、メディアの引っ張りだこになった。同年5月には、「ガッガッ」ことムン・ヒョンウクも逮捕。チョは懲役47年4カ月、ムンは懲役34年、さらに出所後30年間の電子アンクレット装着の刑が確定している。
警察すら気づいていなかったデジタル性犯罪に光を当て、犯罪者たちを暗闇から引きずり出したプルとタンの活躍は、まさに火花。もしふたりが「真相究明ルポ」のテーマを「盗撮」にしなかったら、「n番部屋」は事件化することなく、いまもネットのほの暗い穴蔵で大勢の男たちを集めていたかもしれない。
プロのジャーナリストでもなく、決してタフでもない彼女たちは、人間の底知れない闇に触れることで心身にダメージを受ける。それでも潜入調査を止めなかったのはなぜか? ぜひ本書を手に取ってほしい。
次回は、ロシアの暗殺者の身元を特定し、ウクライナで民間機を撃墜した黒幕を突き止めるなど世界が注目する国際ネット探偵グループを描く『ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く』(著:エリオット・ヒギンズ、訳:安原和見/筑摩書房)を取り上げる。
次回は6/25(木)公開予定です。
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